【KAC2】内見思い出話と彼女の友人の訳あり物件クラッシャーなお話〜ユウとリョウタ〜
達見ゆう
類は友を呼ぶというけれど
休日のまったりした午後。僕ことリョウタは重たくなってきたスマホの整理も兼ねて古い写真を削除していた。例えばご飯を写真に収める時、何枚も角度を変えて撮るが、結局後に見返すことはあまり無いから一枚あればいい。そうして過去のフォルダを探っていた時だった。
「あ、懐かしいな」
「どうした? リョウタ?」
僕はスマホを見せながら言った。
「いや、スマホの写真整理をしてたら結婚前の物件をあちこち内見していた時の写真が出てきた。この物件と今の物件と意見が分かれたよね。こっちの写真の部屋はどうしても嫌で」
「あー、そうそう。そっちは訳あり物件だったっけ。住人が部屋で亡くなっていたとか。安いのにリョウタはすごい嫌がったから今のここになったのだよな」
「当たり前でしょ。自然死でも事件でも訳あり物件は怖いじゃない。って、この物件の写真も白い人影写っているし」
「それは光の加減だろ。でも、事故物件も考えようによっては確かにデメリットあるな。美優ちゃんを覚えている?」
「あ、ユウさんのお友達でいつか住んでたアパートが浸水して急な引越しが決まって物件決まるまでと居た人だね。浸水以外にもなんか人が死んでたとか強烈な理由だったような」
あの時はユウさんの言動にツッコミ入れてるのに夢中だったが、よく思い返すと彼女もなかなかの人だったように思う。
「そうなんだ。私が言うのもなんだけど、天然というか鈍感というか。
彼女は節約のためにあえて訳ありや事故物件に住んでいるけど、SNSのコメントからして住んだ後はその曰くが消えてるらしいんだ。話を聞くと明らかに弊害受けているような気がするのだが。SNSもしょっちゅう炎上するし」
「そういう風に言うのは、現実主義のユウさんには珍しいね」
「んーとね。いわゆるキラキラしたいSNS女子なんだけどね。キラキラではなくメラメラと毎回炎上しているというか」
「なんで?」
「ある時は引越したら先住民が置いていったらしい犬がいて、飼うことにしたと投稿しててな。私は毛の模様でそう見えるだけだと思うけど、『人面犬だ』と炎上してて。あ、あった。これだ」
そう言ってユウさんが美優さんのアカウントを見せてくれた。その犬は確かに人面犬のような顔を……って、人面犬そのものじゃん! 毛の模様なんてレベルではない、実在したのか。
「こ、これは確かに人面犬と騒がれそうだね。あれ? あの時は犬連れではなかったけど」
「そうなんだ。彼女はちょっと抜けてて。うっかり犬にチョコをあげた写真もアップしてて『犬にチョコは毒だ』とまた炎上して。それっきり犬の投稿をしなくなったから、チョコ中毒で死んじゃったのじゃないかな」
「お、おう」
それは無知というか無意識に人面犬を退治したのでは? と思ったが現実主義のユウさんには通じないので僕は黙っていた。
「その次に住んだところが床上浸水しやすいから安いという理由であるところに住んでたのだけど、なんか怪しい投稿しててまた炎上して」
「怪しいって何?」
ユウさんの友人だ、多少のことで驚いてはいけない。
「変なおできができたとアップしてて『人面瘡みたい』とまた炎上して。
私は奇形のおできなら医者へ行けと勧めたけど『お手製ボディローションで気のせいかおできの顔つきが嫌そうになって消えてきた』とよくわかんないこと言ってたな。まあ、結果的にはそれが薬になったのかな」
ユウさんがまた検索してくれて見せてくれた。……えーと、どこからどう見ても人面瘡である。そして、お手製ローションってなんか人面瘡にとってヤバい成分が入っていたのだろうか。怪異が嫌がるなんて相当な代物じゃないか。
それを変なおできと済ませる彼女もユウさんも天然というか、現実主義というか。
「それで、彼女が海外旅行中に大雨で床上浸水してな。帰ってきたら、侵入した泥棒らしき男が逃げそびれて死んでいたと」
それは都市伝説の「ベッドの下の男」ではないのだろうか? ユウさんが見せてくれた顛末をアップした記事には同じようなコメントであふれていた。
「さ、さすがはユウさんのお友達だね。確かにキラキラ女子ではなくメラメラ女子だ。何回炎上しても投稿するなんて強い」
僕はなんと言っていいのかわからずにこうやって返事するのに精一杯だった。二人が同居したら事故物件浄化屋だかになって配信したらバズりそうだがある意味怖いので黙っておいた。
「あ、でもまた今度引っ越すとか言って明日、内見すると言ってたな」
「い、今の物件になんか起きたの?」
「ほら、先週バッファローの大群が来ただろ? 彼女の住むアパートにも来襲して部屋が一部破損したんだって。彼女は不在だったから無事だったけど、建て直すことになったとか。今回は災害だからって、大家が仮住まい提供してくれたんだって。
でも、その仮住まいだと家賃高めで予算からして足りないからまた引っ越すと。今は期間限定で以前と同じ家賃で住まわせてくれるらしいけど」
「……そ、そっか。それは大変だったね」
あの件の真実は僕の胸の中にしまおう。お互いの友情のためだ。
「そうそう。その半壊部分からミイラ化した死体が出たとか言ってた」
「災害以前に警察案件でしょっ! 先週、記事になってたあそこか! 今までよく平気だったね?!」
「そういやあ、冷房の効きが良いけど冬は寒いとか言ってた。寒いから死体を隠すにはいい条件だったのだろうねえ。今年は全然涼しくないと言ってたけど」
「いや、それ、冷気じゃなく霊気だよ」
「ん? レイキなら同じじゃないの?」
「だめだ、こりゃ」
「その内見に付き合ってみる? 事故物件たくさん見学できるよ。彼女が事前に教えてくれたのでは『激狭ワンルーム(不自然な壁で他の部屋より狭くなっているため)』に『1LDK、築三十三年(定期的に赤いシミが出るため壁紙の定期張替えあり)』、『競売落札物件だが、落札者と先住者とのトラブルで事件あり』とどれもすごいよ。家賃が二万円均一なんだって」
「……謹んでお断りします。ところで、ユウさんと美優さんとはどんな繋がり?」
「オタ友。同じ絵師さん好きで同じ市内住みだからイベントに一緒にも行くよ」
「そ、そっか。とりあえず僕は内見時の写真を整理するよ」
つまり、腐女子か。何かであの世の方々は腐女子やR18を嫌うと聞く。今回も住んでいるうちにミイラの主は逃げ出したのだろう。
現実主義と天然の組み合わせはとんでもない化学反応を起こす、つくづく僕は普通の感性で良かったと思う。
そう思ってたらメッセージが入ってきた。差出人不明だからスパムか? リンクを踏まないようにタップするとこんな内容が入っていた。
『あの時はあなたが来てくれたら取り憑くつもりでしたが、奥様が怖いので入居をやめてくれて良かったです』
えーと、深く考えてはいけない、僕は何も読んでない。読んでないんだっ! 僕は慌てて事故物件の内見写真を削除した。
【KAC2】内見思い出話と彼女の友人の訳あり物件クラッシャーなお話〜ユウとリョウタ〜 達見ゆう @tatsumi-12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます