お友達
「じゃあ改めて自己紹介だ!僕はウクレム・エーレルト!4歳!趣味は町の掲示板を眺めることと、兄さんと話をすることさ!あとたまに楽器も弾く!」
「私はレイシー・トレイラー。あなたと同じく4歳。趣味は……読書かな。」
お前らの母さん来るまでここでまってろー。俺はコーヒーでも飲む。世間話でもしておいたらどうだ。
というエフィムントの言葉に従い、2人は母を待つ間改めて自己紹介をすることにした。
「ほうほう、レイシーさんは読書が好きなのか。読み書きも本で覚えたのかい?」
「書く方はまだ自信ないけど、読むのはそうね。本で覚えた。ウクレムさんは?」
「僕は兄さんから教えてもらった!掲示板の前に立っては、これなんて読むの?これは?ってしつこく聞いたんだ。」
お互いの趣味の話や、家族の話が主な話題。
兄さんはこんなことが得意なんだ、私のところは兄妹がいるわけではないからうらやましいな、僕の父さんはこんな人なんだ、私の父様はこんな人で困ってるの……などなど。話は尽きない。
「ねぇ、ウクレムさん」
「なに?レイシーさん」
少しづつ打ち解けてきて、レイシーは思うところがありウクレムに声をかける。
「これから、私もここに通うことになるろ思うんだけど」
「そうなんだ!嬉しいなぁ。生徒が僕一人で寂しかったんだ」
「あの……えっと……」
そして心の中でこっそり、自己紹介とは別で何度も練習していた言葉を口にする。
「わ、私と!お友達になってくれませんか!」
「えっ、違ったの?」
微笑みながらこちらをのぞき込んでいるウクレムが視界に入る。
「え」
「僕はもう君のこと、友達だと思ってたよ。君は違うの?」
「ちがくないけど。だって、『さん』つけて呼ぶから」
あー!とウクレムはわざとらしく驚いた表情を作り、
「じゃあ、レイシーって呼んでもいい?」
満面の笑みを浮かべてそういった。
「……!うん!うん!そう呼んで!私もウクレムって呼んでいい?」
「もちろんさ!父さんと母さんがつけてくれた自慢の名前、たくさん呼んでよ!」
そうして、レイシーにとって初めての友人ができた。
◆
そうこうしていると、両家の母親が到着したようで、バルコニーの方から足音が聞こえてきた。
「レイちゃーん!エフィーにいたずらされなかった?大丈夫だった?」
はじめに駆け寄ってくるのはレイシーの母。娘の姿を見るや否や、ぐりぐりと頬擦りをしてくる。そんな母の様子を見て、一緒にやって来た女性は呆れたように笑う。
「まぁ!リムレイさん。そんなにくっつかなくてもいいのではなくて?ウクレム。迎えに来たわよ。」
「母さん!」
ウクレムも母の元へ走り寄り、ぎゅっと抱き着く。
「ウクレムもまだまだ甘えん坊さんねぇ。こんにちは、レイシーちゃん。ウクレムの母です。よろしくね。」
ウクレムの頭をなでながら、女性はレイシーに声をかけてくる。
母をぎゅっと腕で押しのけ、「よろしくお願いします」と頭を下げながら答える。
「ね~!うちのレイちゃん、しっかりしてるでしょ。」
「本当ね~娘が居たらこんな感じだったのね、かわいいわぁ~」
2人の母親はキャッキャと話をしている。
「あの、母様とウクレムさんのお母様、知り合いなの?」
あまりにも打ち解けている2人にそう問いかけてみる。
「いいえ?ついさっき会ったばっかりよ。」
ねー!と2人は息ぴったりな様子。
しまいには子供2人をほったらかしにして井戸端会議をし始める始末。
そもそもこの国に井戸端なんて物があるのかは分からないが。
「おい、リムレイ。ここで話し込むんじゃねぇ。エーレルトさんも困ってるだろ。」
「何よぅ!初めてできたママ友と話し込んだらダメっていうの?」
「ここで話始めるなって言ってんだよ。」
「まぁ、ミスター・エフィムント。そんな粗暴な言葉使われるのね。」
「いえ、エーレルトさん。そうではなくですね」
大人たちがわいわいと話し込み始める。
うーん、これは長くなりそうね。
なんだかんだで初めての授業を受けて頭を使ったレイシーは、もう早く帰りたい気持ちでいっぱいで、もう直接伝えることにした。
「母様」
「なあに、レイちゃん」
「私、疲れたからもう帰りたい」
疲れちゃってこう、オブラートに包むのもう面倒くさいのよね……。
「そうじゃない!ごめんね?じゃあね!エフィー!また来るわ!」
「もうリムレイは来なくていいぞ。……ニヤニヤ笑うな」
「先生、僕もそろそろ帰ります」
「おう。じゃああれやるか」
ウクレムとエフィムントは向き合い、顔を見合わせる。
「今日もよく頑張りました」
「はいっ!ありがとうございましたっ!」
「「さようなら」」
ウクレムは元気にぺこっと頭を下げ、エフィムントは綺麗なお辞儀をする。
2人は声を合わせ、授業の終わりを告げた。
◆
「じゃあまたね、レイシー!」
「うん、またね」
そう言って、お互いに母が乗ってきたホバームに乗り込む。
「お嬢様、お疲れ様でした」
「お嬢おかえリー!!」
レイシー側のホバームの中からアンとイオが声をかけてくる。
ホバームに乗り込み、レイシーは母の横に座り窓を眺める。すると、向かいに浮かんでいたホバームの窓から、全力でウクレムがこちらに向かって手を振っていた。それはもう腕が取れそうな勢いで。
その姿に思わずくすりと笑い、レイシーは控えめに手を振りかえす。
その後、ウクレムはこちらの姿が見えなくなるまで嬉しそうに手を振っていたので、レイシーも同じように返し続けた。
お互いの姿が見えなくなってようやくレイシーは手を振るのをやめふぅ、と息をつく。
落ち着いたレイシーに、母が問う。
「あの子と、仲良くやれそう?」
「ウクレム?うん。いい子だった」
名前で呼んでいいか聞いた時の表情を思い出しながら答える。
いつもの優しい声音で聞く。
「授業は?」
「知らないことを知るの、楽しいね」
本当にワクワクした。そうつけ足しながら答える。
最後の確認なのだろう。一抹の不安が混じったような笑顔で母が問う。
「このまま通う?」
「もちろん」
我ながら今日一番、と思える力強い声で即答。
レイシーの答えに母は満足そうに「決まりね」とつぶやいていた。
「そうですね、奥様」と母と同じような笑顔を浮かべるアン。
「お嬢、あそこ通うノー?天才になっちゃウな!」ばんばんとこちらの背中をたたきながらにっかり笑いそういうイオ。
なんかだか分からないが、三者三様に喜びを示してくれているようだ。
自分の行動一つでなんだかみんなが嬉しそう、というだけで心が温かくなった。
「へへ……んにゃ……」
ぐいぐいと目をこする。
「無理しないで寝たら?ほら、膝枕してあげる」
母がそう言うので、そのマシュマロのように柔らかい優しさに包まれながらレイシーは瞼を閉じた。
◆
レイシーが目を覚ましたのは黄昏時。
アンの「お嬢様、そろそろ起きてくださ~い!」という声で起き上がる。
あ、部屋まで送ってくれたのね。
起き上がればそこはいつもの自室。
「お嬢様。夜ご飯の準備整いましたよ」
「うん……たべる」
「はいっ!では一緒に食堂へ向かいましょう」
まだ開ききらない目をこすりながら、アンに手を引かれつつ食堂に向かう。
全員席に着いたことを確認し、いつもの通りレイシーの「いただきます」で食事が始まる。
「父様。今日エフィムント先生のところ行ってきたよ。お友達もできたし、あそこに行こうと思う。」
「おお!エフィムントのところに行くのか。あいつはいいぞ〜ちょっとだらしないところもあるが、頭脳に関してはあいつ以上の適任を父さんは知らないな!」
うんうんと頷きながら父は返す。
「というかもうお友達出来たのか。さすがレイシー!」
「へへ。うん、ウクレムっていう子なんだけどね」
名前を聞いて父の表情がこわばる。
「ちょっと待って。うん、名前だけで判断するのはよくないな。……レイちゃん、一応、本当に念のため確認するんだけど」
「なぁに、父様」
油の刺さっていない機械のように、ぎぎぎとレイシーの方を向き、恐々と問う。
「その子……男の子?」
「僕って言ってたし、そうだと思うよ」
「ええ、男の子って言ってたわね。ウクレムくんママ」
数秒間、ただ父以外の全員が食事をしている音だけが鳴る。
「……だめだ」
「何が?」
「ダメだレイシー、その塾行っちゃ!ダメ!」
がばっと突然父が立ち上がり声を張り上げる。母は「お行儀悪いわよ、あなた」とだけ言い、父を気にせず食事を続ける。
一方レイシーは、今日はなんだか両親の新しい一面がいっぱい見られるな、と呑気にそんな事を想いつつ疑問を口にする。
「なんでダメなの?」
「だって!レイシーちゃんこんなにかわいいのに!悪い虫が付くだろ!?え、パパは許しませんよ!?リムレイ!他に良い塾ないのか!?」
「あなたがエフィーのところがいいんじゃないって提案したんじゃない」
「そうだよ!僕が言ったんだよ!あああ……」
なんだこのコント。
「大丈夫よ、レイちゃん。パパのことは気にせず存分に学んできなさい」
「う、うん」
同じ食卓に居たアンとイオも、その言葉に同意するよう、コクコク頷いていた。
天寿を全うした私。異世界のお嬢様学校で楽しいセカンドライフを送ります! つじ みやび @MiyabiTsuji2525
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