とある不動産屋
山本アヒコ
とある物件にて
「こちらがお客様におすすめの物件です」
「うわー、大きい」
とある不動産屋と、その客が物件の内見へ来ていた。
客はその物件を見上げて感心した様子だ。
「でも日本にこんなものがあるとは思いませんでした」
この物件は巨大な西洋建築の館だった。城を模しているのか、円錐形の屋根を持つ塔のようなものが左右対称に高く伸びている。
「ではどうぞ」
不動産屋はアンティーク調の鍵でドアを開ける。しかしなぜか二人は館のなかに足を入れない。
「ここですか」
「はい」
不動産屋がリモコンのスイッチを押すと、床が開いて穴ができた。
「このようにスイッチひとつで簡単に開閉できます」
「おー、いいですね」
「下には二メートルの鉄杭が隙間なく並んでいるので、確実に致命傷をあたえることができます」
「いいですね」
次に案内されたのは広い食堂だった。天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。部屋の中央に縦長のテーブルが置かれていて、椅子も均等に並んでいた。
「このテーブルを使えば、最大十八人を殺すことができます」
不動産屋はテーブルの短い辺側へ向かうと、天板の下にあるスイッチを操作する。すると椅子が置いてある場所から勢いよく刃が飛び出した。椅子に誰かが座っていれば必ず体を貫かれる長さだ。
「椅子の位置が多少変わっても、装置の位置を変更することで対応できます。それでも限界がありますが。ただこのテーブルは何十年も前のものなので、リモコンによる遠隔操作は不可能ですから、こうやって直接操作してもらうしかありません」
「こちらで改造してもいいのですか」
「もちろん問題ありません」
不動産屋は完璧な営業スマイルを見せる。
この他にも天井が落ちてくる寝室や、壁にある秘密の扉と地下通路、注ぎ方で毒のあるお茶を出せるティーポットなど、館にあるいくつもの仕掛けを案内した。
「ここに決めました」
「ありがとうございます」
この不動産屋は、殺人トリック専用住宅を扱う業者だった。
とある不動産屋 山本アヒコ @lostoman916
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