第9話 新居を決めるカインクム


 地下室のもう一つの階段を上がると、そこはキッチンにつながっていた。

「どうでしょうか? 職人さんを雇った場合の食材を取りに行くにしてもここからなら具合も良いと思います。それに地下は温度が安定してますし、日光も当たる事もありませんから保存には適していると思います」

 ツバイエンは、フィルランカに話すと納得するような笑顔を返した。

「そうですね。とても使い勝手が良さそうですね」

 フィルランカの答えをツバイエンは少し恥ずかしそうにして聞いていた。

「ああ、ツバイエンさん。ここの床は結構厚みも有ったし、梁も太い物を使っていたし、梁から梁に伸びている床板の固定用の棒も太い物を使っていたが、かなりの重量物でも大丈夫なのかい?」

 カインクムに声を掛けられると、ツバイエンは慌てた表情をしたが、直ぐに気を取り直し自慢そうな表情をした。

「え、ええ、ここの建物は最初から鍛冶屋の方に入ってもらうつもりで作りましたから、床は抜けないように頑丈にしてあります。リビングを全部倉庫にしたとしても床が抜ける事は無いように設計されてますから、リビングの床が地下に落ちるような事はありません。ですから安心してください」

 フィルランカを気にしていたところに話しかけられて焦った様子を見せたが、直ぐに商人として質問に答えたのでカインクムは感心した。

(なるほど、ジュエルイアンの所に居るだけの事はあるな。どんな状況でも切り替えてくる。きっと、将来有望だと思われて使っているのか)

 カインクムは、少し複雑な表情をした。

 カインクムは、フィルランカとの関係が出来なければ、卒業後は商人の嫁にと思っていた。

(あんな事が無かったら、良い相手だったのかもしれない)

 黙ったまま考え込むような表情をしていると、フィルランカが顔を覗き込んでいる事に気がつき表情を優しくした。

「どうだった? 気に入ったのか?」

 カインクムが話し掛けるとフィルランカは嬉しそうに微笑んだ。

(あ、フィルランカは気に入ってたな。聞く必要なんて無かったが、不要な事を考えてしまったな)

 カインクムは少し気まずそうな表情をしていた。

「ええ、とても素敵な家です」

 それを聞いて、カインクムも微笑んだ。

(フィルランカには気付かれて無かったな。まあ、家を気に入ってくれたのだから、ここはジュエルイアンの好意に甘えるか)

 カインクムはツバイエンを見た。

「ありがとう。良い物件を紹介してくれて、とても嬉しいよ」

「いえ、とんでもありません」

 ツバイエンは、ホッとした。

「ここを使わせてもらうよ」

「ありがとうございます」

 ツバイエンは大きな声で返した。

 カインクムに使ってもらえると決まると緊張が解れたようだ。

「いやー、ダメだと言われたら、どうしようかと思ってたんですよ。ヒュェルリーンから、ジュエルイアンの厳命だからと言われていたんで助かりました」

 ツバイエンは決まった事でホッとし過ぎて余計な事を言ったので、カインクムは何の事だと思ったようだ。

「私としては、入居する人が気に入らないなら別の物件を紹介した方が良いと思う方なので、ダメだと言われたら常に別の物件を紹介するようにしますから、その場合は、私がヒュェルリーンに叱られる事になるんですよ。いやぁ、本当に助かりました」

 ツバイエンは嬉しそうに話したが、カインクムは複雑な表情をした。

(この物件を断ったら、この青年に迷惑が掛かる事になったのか。ジュエルイアンもヒュェルリーンも無理矢理にでも俺達をここに引っ越させたかったのか)

 カインクムは、部屋の中を見回していた。

(だが、今までより高級な物件を? いや、高級どころか最高級の物件を俺達の為にというのは少し違うんじゃないのか?)

 難しい顔をすると顎を手で摘むようにしながら視線を下に向けた。

(何だか、これから先、ジュエルイアンにとんでもない依頼を引き受けさせられるんじゃないのか?)

 すると、カインクムは肘をツンツンと引っ張られている事に気がついた。

「どうかしましたか?」

 フィルランカが心配そうにカインクムに尋ねた。

「あ、いや、何でもない。それより、ここに住むなら引越しの準備だな」

「はい」

 フィルランカは嬉しそうに答えたので、カインクムも微笑むとツバイエンを見た。

「それじゃあ、俺達は戻って引越しの準備をするよ。それと、手続きに必要な事が有れば対応する」

「ありがとうございます。手続きの方は私が行います。完了しましたらサインを頂く事になりますので、その際は伺います。何なら今日にでも引っ越しなされても問題ありません」

 その答えにはカインクムも本当なのかと思った表情をした。

(ジュエルイアンのやつ、絶対に俺達を、この物件に押し込むつもりだったにしては手回しが良すぎるだろう)

 そして、ため息を吐いた。

(絶対に、何か有るだろうな)

 思い遣られた表情をしたカインクムは、フィルランカに視線を向けると、ワクワクが止まらないのか、ニヤけた頬を両手で覆い表情を誤魔化そうとしていた。

 しかし、全く誤魔化せてなかったので、カインクムの表情にも笑みが見えた。

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