第8話 隣人


 フィルランカの紹介した人はカインクムも覚えがあった。

 カインクムは、隣にシュンクンの道具屋が来た場合の事を考え始めていると、フィルランカは嬉しそうな表情をした。

「あそこのリルキーシャちゃんはウサギの亜人なので、トウレンさんの奴隷という立場になってますけど、誘拐に遭わないように契約しているだけで、親子のようにとても仲が良いんですよ」

 リルキーシャの事は、カインクムも良く知っていた。

 シュンクンが一人では大変だった事から、帝国にだけ居る奴隷商人から購入していた。

(そう言えば、購入した当時はビクビクして悲しそうな顔をして、目も合わせてくれなかったが、今では可愛い笑顔を向けてくれるようになっていたな。そういえば、フィルランカが納品をするようになってから変わったのか?)

 カインクムは、何かを思い出すような表情をした。

(亜人奴隷は、誰もが悲しそうにしているか、恨むような表情をしているが、あの娘はフィルランカと会うようになってから変わった?)

 カインクムはフィルランカが嬉しそうにしている表情を見ていた。

「でも、最初は近寄ると驚いた? うーん、ちょっと違うかな。でも、とても可愛かったんですよ。それで、私が小さい時に着ていた服なら丁度良いかと思って持って行ったら、とても喜んでくれて、でも、心配そうにトウレンさんを見たら、良かったねって言われたんです」

 そこまで言うとフィルランカは良く分からないという表情をした。

「そうしたらリルキーシャちゃんが泣き出しちゃったんです。私、びっくりして謝ったんだけど、トウレンさんが後は俺が見るからって、それに暗くなり始めた頃だったから夜道は危険だからって帰らされたんです。でも、次の納品の時は、リルキーシャちゃんは、私のあげた服を着てくれてたんです。少し服が大きかったけど、紐で縛ったりして上手く使ってくれてました」

(そうだったのか、フィルランカのお古をリルキーシャちゃんに渡したのか。フィルランカのお古ならミルミヨルの店の服だからな。流行りの柄じゃなくても人気の商品だからな。とても嬉しかったんだろうけど、フィルランカは気づいてなかったのか)

 カインクムはフィルランカの話をホッコリした様子で聞いていた。

「それまでは悲しそうな表情だったのに、次にお店に納品に行った時は、とても可愛い笑顔で迎えてくれたんです。私、泣いたままにして帰ってしまったから、ちょっと行きずらかったのだけど、その時はとても可愛かったので、忘れてしまって思わず抱きしめてしまいました。小さくて可愛くて、とても愛おしいって思ってしまったんです。でも、服をあげた時、何でリルキーシャちゃんは泣いてしまったんでしょう」

 不思議そうに考えるような表情をしたのを見て、カインクムは信じられないという表情をした。

(お前が渡した服が嬉しかったからだろう。……。でも、フィルランカだからな。そんな事も分からず、相手が喜ぶだろう事をしたんだな。それが、フィルランカの無意識の優しさなのか)

 そして、納得するような表情をした。

「今は、納品のお手伝いで伺った時、今のリルキーシャちゃんはとても嬉しそうに迎えてくれるんです。小さくて、可愛くて、髪の毛の手入れをしてあげた事もあります」

 その話を聞いたカインクムは不思議そうにみた。

「そうなのか、亜人は耳や尻尾を触られたがらないから、髪の毛なんて触らせてくれないと思ったが、そうでも無いんだ? ……。ああ、お前になら触られても大丈夫だと思ったのか」

 フィルランカは不思議そうな表情でカインクムを覗き込んだが、直ぐに、思い出すように少し上を向いた。

「そう言えば、その時、トウレンさんが驚いたように私達を見て、リルキーシャちゃんに、珍しい事もあるとか言ってたわ」

 おっとりした表情で話をするフィルランカを、カインクムは少し呆れたような表情で見た。

(そりゃそうだろう。髪の毛を触られれば耳に触れる機会もあるだろう。あの娘はウサギの亜人だから耳も大きい! 特に嫌がるはずなんだ。お前がお古を与えた事から、信頼されたって事だろう)

 カインクムは、不思議そうに聞いていたが、直ぐに納得したような表情になった。


 二人の会話を黙って聞いていたツバイエンは何かを思い出すような表情をしていた。

「道具屋、トウレン、シュンクン? ああ、トウレン・ミィヤオ・シュンクン様ですね。聞いた事が有ります。あそこの商品もカインクムさんが作っていたのですか。だったら、カインクムさんさえ宜しければ私の方で交渉しておきます」

 フィルランカの話を聞いていたツバイエンが、隣の住人も決まりだと思ったように話したので、カインクムは一瞬戸惑ったような表情をしたが直ぐに納得したようだ。

「ああ、フィルランカが構わないなら、俺もシュンクンで構わないが、亜人が一緒の店でも問題無いのか?」

「当商会としては問題ありません。私自身は帝国の出身ですが、本店の方で亜人に対する差別意識は徹底的に排除されました。それに、私の上司は、エルフのヒュェルリーンです。人種によって差別するなんてナンセンスです。外側を見て判断するのではなく、外見に出る様子から内面を知りなさいと躾けられましたから。でも、今の話を聞くと、そのリルキーシャさんの人柄も分かりました」

「それなら、こっちにも異論は無い。隣はシュンクンの道具屋にお願いしたい」

 カインクムの言葉を聞いてツバイエンは軽く礼をした。

「かしこまりました。それでは、その方向で話を進めておきます」

 そう言うとツバイエンは、もう一つの階段を指し示すと二人を導くように歩いて行った。

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