第7話 地下室


 地下室を案内すると言われてカインクムとフィルランカも不思議そうにツバイエンを見るので、思った通りの反応だと思ったようだ。

「帝都は東の森にも近く、それに以前は侵略の危機に陥った事もあります。ここの第9区画は帝都の南門が新しく作られました。南門から皇城まで一直線になっていますが、防衛を意識して建設されてますから、地下室は突破された際のシェルターの意味もありますから、地下への階段は隠してあります」

 二人は納得するようにツバイエンの言葉を聞いていたが、フィルランカは思い出すような表情をすると何でなのというように首を傾けるとツバイエンを見た。

「あのー、帝国が侵略されたのって、帝国暦103年に1度だけですよね。今年は360年ですから、250年以上前の話です。それに今では国境付近には帝国で一番大きなツカ辺境伯領が有って辺境伯軍が国境警備を行っていますし、今は西の王国とも友好的で交易も盛んに行われていますから、侵略されるなんて事は起こりにくいと思いますけど」

 フィルランカの話を聞いてツバイエンは少し驚いたように見た。

「帝国の歴史も世界情勢にも詳しいのですね。カインクムさんは良いをお持ちなのですね」

 そんなツバイエンの様子を見てフィルランカは出しゃばり過ぎたかと思った様子でカインクムを見たが、カインクムは気にする様子も無かったが、ツバイエンは自分も博識なのだと言うことを示したいと思ったようだ。

「国の防衛というものは平和な時から行っていく事になります。実際、戦争になったからと言って、防衛力を強化していたら間に合わずに侵略されてしまいます。それにこっちは強いと思わせれば迂闊に侵略戦争を仕掛けられないわけです。それに帝国は東の森と接しており、誰も倒した事の無い大陸最強の魔物もいます。今でも帝都の外では、その魔物の被害が有りますから、当商会の建物は考慮してあります」

 その説明には、あまり、現実味が無かったのかしっくりしない表情をした。

 第9区画は未完成とはいえ、外堀は完成して帝都の北側の大河から水も引き込んでいたので、最強の東の森の魔物が帝都に入り込む事は考えにくく、それに帝都の中で魔物騒ぎが起こった事も無かった事から過剰な設備のように思えたのだ。

 その様子を見ていたツバイエンは、二人の考えている事が分かったように言葉を続けた。

「それに、強盗に襲われないとも限りませんから、そんな事も含まれてます」

 そう言われて、二人は納得した。


 ツバイエンに案内されて向かったのは、店舗から家屋側に入った廊下だった。

「強盗については、店舗の入口から入って来る事を想定して、店舗のドアを抜けた部分に取付ました。店舗のカウンターからならドアを開けて、こちらに入ったら、ドアの間抜きを下ろしてしまえば、ここから地下に降りれます」

 そう言って、廊下の床を持ち上げると、地下への階段が現れた。

「ドアの間抜きは、ここへ逃げ込める時間を稼ぐ事を考えておりますから、簡単に動かすだけになってます。あまり、頑丈では無いと思ってください。あの間抜きは時間稼ぎなので、直ぐにこっちへ入って閉める事が目的です」

 説明が終えると、店舗側から下に降りられるように見える階段をツバイエンが降りていくので続いて降りた。

 途中で魔道具のランプを手に取って火を灯すと地下室の様子も分かるようになった。

(床材も厚く梁も太いものを使っているみたいだ。これなら重量物を置いても問題なさそうだな)

 カインクムは、階段を降りながら1階の床と地下室の天井を確認していた。

 降りていくと地下室には天井は付けられていなかった事から床材の固定方法が手に取るように分かり、太い梁の間隔も狭く床材を取り付ける為に梁と垂直に付けられた角材も太い物を使っている事が分かったので、安心したように見ていた。


 大きな地下室は、何本か錬成魔法で作られたと思われる柱が1階の梁を支えており、降りてきた階段の先にある壁にも壁に沿って登り階段があった。

「あっちは、リビングに繋がってますから、ここはキッチンのパントリーとしても使えます。仕切りを用意しようかとも思ったのですが、使い勝手はカインクムさん達で考えてみてください」

 カインクムは、降りてきた階段の先に見える階段を見てから地下室全体を見渡すと、横に見える壁の中央に一つだけ棚が用意されている事に違和感を感じたようだ。

「なあ、あそこに棚が用意されているけど、壁の中央に一つだけっていうのは何か意味が有るのか?」

 気になって聞くと、ツバイエンは感心した表情をした。

「さすが、お目が高い。あそこは、裏に扉が用意されております。万一の時は隣の家から逃げ出せるようになっております」

 それを聞いてカインクムは驚いたような表情をした。

「おい、お隣に悪いじゃないか」

「はい。ですから、お隣にはカインクムさんのご親族の方をと思っております。ご紹介いただければ、私の方でご案内するように致します。あ、当然、家賃の負担は商会の方で検討しますので、ご紹介して頂いた方にご迷惑にならないようにいたします」

 そういう事かと納得するが、直ぐに困ったような表情をした。

「そう言われてもなぁ、俺の兄弟も親戚も商売をしている人は居ないからなぁ」

 すると、黙っていたフィルランカが何かを思いついたようにカインクムの袖を引っ張った。

「だったら、道具屋のトウレンさんはどうですか?」

「ああ、シュンクンの道具屋か」

 カインクムは、悪くないという表情をした。

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