第6話 2階のリビング


 カインクムは、フィルランカの表情を見て少し驚いたような表情をしたが、直ぐに微笑ましい表情になった。

(俺は、工房と倉庫を確認したいけど、あの表情を見てしまうと、そんな事は言えないな)

 フィルランカが潤んだ目でツバイエンを見ていた事は、二つ目のキッチンと聞いたからであり、料理上手なフィルランカだからの行動だと理解できたようだ。

「フィルランカ、2階のキッチンも見てみようか」

 その言葉にフィルランカは嬉しそうに向くとコクリと頷いたので、カインクムは少し恥ずかしそうにした。

(本当に嬉しそうだ。だが、あの表情を見る男は誤解するかもしれないな。まあ、あの性格だから、人がどう思うかなんて考えてないんだろうな。……。そうじゃなければ、俺のベットに裸で潜り込んでくるなんて事はしないだろう)

 カインクムは、微笑ましく思うと赤くなっていたツバイエンを見た。

「すまないが、先に2階を見せてくれないか?」

 カインクムに声を掛けられると慌てた様子で視線を向けた。

「あ、はい。に、2階をご案内します」

 ツバイエンは、少し上擦った声で答えた事を、恥ずかしいと思ったのか咳払いをし、くるりと回ってリビングを出て2階に向かった。

 その後をフィルランカとカインクムが続いた。


 2階に上がるとツバイエンは二つ目のリビングに案内した。

 そこは、1階の半分も無いが、カウンターキッチンとそこから伸びるようにテーブルが置かれ椅子が5席用意されており、椅子と椅子の間も十分な広さが保たれていたので、5人分のコース料理を置いても十分な広さが確保されていた。

 カウンターの中は、水盤も釜戸も用意されており設備は整っているのを見たフィルランカは直ぐにカウンターの中に入って設備を確認していた。

 1階の時もだが、フィルランカは、設備のパーツまで確認するように見ている。

(ひょっとすると、こっちの方が使う頻度が多いと思って、細かく確認しているのか)

 カインクムは、フィルランカを目で追いながら嬉しそうにしていた。

「いやぁ、は、とても料理を作るのが好きなのですね。あんなに丁寧にキッチンを確認する人は珍しいですよ」

 ツバイエンは、少し赤い顔をしてフィルランカを見ながらカインクムに声を掛けた。

(あ、そうか、エルメアーナと歳は一緒だから、娘と間違えたのか。それに、ジュエルイアン達は、俺とフィルランカの事は話してないんだな。だったら、今は余計な事は言わなくてもいいか)

 ツバイエンの言葉を聞いて、カインクムは少し赤い顔をして考えるような表情をした。

「あいつは、小さい頃から料理を作ってくれていたし、美味しい料理にも目が無くて、あちこちの食堂やらレストランの料理を食べては真似して作ってくれてたんだ」

「そうでしたか、だったら、とても美味しい料理を作ってくれたのですね」

 カインクムの答えを聞いてツバイエンは羨ましそうに言った。


 カインクムはフィルランカの様子を確認するとリビング全体を確認するため、キッチン側とは反対側を確認するとソファーとテーブルの先の暖炉、そして壁に備え付けられた棚を見て表情を強張らせた。

「すまない。あのソファーもこっちの棚も高級品じゃないのか?」

「ええ、それはジュエルイアンが気に入っている家具屋が用意してくれましたから良い物ですね。ああ、そう言えば纏めて頼んだら値引き額も良かったと喜んでましたよ」

 それを聞いてカインクムは引き攣った笑いを浮かべた。

(いや、こんな高そうな装飾もされているなら元値が張るだろう。いくら値引きが大きかったと言っても、俺のような庶民の使えるような代物じゃない!)

 ツバイエンは、カインクムの表情を気にする事なく置かれている棚を見た。

「ここに酒瓶を並べて置いて、日によって別のものをソファーで飲むなら、その日の疲れも吹っ飛びますよ」

 カインクムは強張った表情をしていたが、ツバイエンは自慢そうに説明していた。

 すると、キッチンを確認したフィルランカがカインクムの後ろに戻ってきて、カインクムの肘の辺りを摘んで軽く引っ張った。

 カインクムは、気がついて振り返ると、とても嬉しそうにしているフィルランカが俯いていた。

(何だ、とても分かりやすいな)

 フィルランカの表情を見ると、今までの表情が緩んだ。

「気に入ったのか?」

 カインクムの言葉にフィルランカは恥ずかしそうにしてからコクリと頷いた。

(フィルランカが気に入ったのなら、それで良しとしよう)

 カインクムは、そのままの表情でツバイエンに向いた。

「それじゃあ、全部の部屋を見せてくれないか。それと、工房と倉庫もだ」

「あ、はい」

 ツバイエンは、二人の様子に違和感を感じたようだが、詮索するような様子は無く、2階の部屋を全て案内してから1階の倉庫と工房を案内した。

 倉庫については、カインクムが細かく確認して納得していたが、工房については、その広さを見て流石に驚いた。

 そんなカインクムに、冒険者の流入が見込めるので、職人を雇う事も考慮していると言われて渋々納得した。

 カインクムとしたら、フィルランカが気に入っている家屋なので、贅沢すぎるという理由で断る気にはならなかったようだ。

「では、最後に地下倉庫をご案内します」

 ツバイエンの言葉を聞いて、カインクムもフィルランカも不思議そうな表情をした。

 それは、1階から地下に降りる階段が無かった事から、何処から地下に降りるのかと思ったからだ。

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