【KAC20242】①うまい話には……

蒼河颯人

うまい話には……

 私はとある住宅へと向かっていた。

 引っ越し先である住宅の内見のためだ。

 幾つか候補があるのだが、まずは見学してから決めようと思った。


 そのマンションの駅までは歩いて十分位。良い感じだ。少し歩いた方が、程よい運動にもなる。

 普段買い物に行くことになる近くのショッピングモールまでは、歩いて五分ほどだ。その隣には家電量販店やホームセンターもある。見たところ、生活するには特に問題無さそうだ。


 早速入居予定となっている部屋に入ってみると、日当たりは良好で、窓から見える眺望もこの上なく素晴らしかった。排水口の匂いもほぼない。近隣の音もさほど気にならない位。コンセントの高さや位置、数も多過ぎず少な過ぎず、良い感じだ。


 カーテンレールや家具、家電を置く場所の寸法を持参したメジャーで計測してみたが、偶然なのか特に問題なさそうである。


 玄関や洗面所のドアのサイズもちょうど良く、まるであらかじめ自分のために計測されて作られたかのようだ。クローゼットや押し入れの収納量も、現時点ではちょうどよい塩梅で、特に問題点はなさそうだ。セキュリティーや宅配ボックスもちゃんとしている。


 今度は外を見てみることにした。ゴミ出し場もきちんと整理されており、極端なマナー違反者はいなさそうである。駐輪場や駐車場も右に同じだ。


 こんなに理想的な物件ってあるだろうか? 出来過ぎと言っても良い位である。そこでふと不安が脳裏をよぎった。好物件なのに、ここは何故空いているのだろう? 私は疑問に思った。改めて書類を見直してみると、築年数も比較的新しいのに、敷金礼金合わせて半分以下と破格。


 ――ひょっとして、曰く付き物件なのでは……?


 実は三年前にここの元住人が首吊り自殺した部屋だったとか。

 今は普通だが、かつてはゴミ屋敷だったとか。

 ……などなど、ここはちょっとしたホラーもので良く聞く事故物件かもしれないと、途端に疑惑が鎌首をもたげてきた。


 ――念の為、確認しておこうか。


 不動産の担当者に問い合わせてみると、次のようなことを平然と言ってきた。


「すっかり失念しておりましたが、ここのオーナー様から言伝が御座います。実はオーナー様の御尊父様と御母堂様がここの一階にお住まいなのですけど、価格を激安価格にする分、お二方のお世話をお願いしたいというのが条件でして……」


 ――完――



 

 

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