孤独の竪穴式住居
イルスバアン
某月某日 午後1時 東の地方
「へえ、
単身赴任してから3日。
引継ぎが落ち着くまでは職場近くの同僚宅に泊まらせて貰っていたが、そろそろ本格的に借宿を考えようと出向くことにした。
業者に案内されて、森を歩くこと15分。
開けた広場には、7棟ほどの住宅が中央を囲むように建っていた。
都会の手狭な部屋に慣れていた私からすると、自然の解放感が心地良い。
周囲を観察していると、子供を連れた婦人とすれ違った。近所の住民だろう。
業者の男は東に伸びる道を指さした。
「近くにいけば川もあります。アサリにハマグリ、釣りが上手ければ魚なんか取れますよ」
釣りか。
新天地で、新しい趣味として始めるのもアリだな。
そこの貝塚に詰まれた殻の量からしても、川の幸がたくさんというのは、誇大広告なんかじゃあなさそうだ。
お、ここが言っていた物件か。
外には物干しと開墾器具が置いてある。
横に置かれた壺は、縄目の模様が可愛い。前の住民の趣味か。
「さ、早速中に入ってみてください。お足元には気を付けて」
言われるまま、身を低くして小さな階段を降りていく。
おや、中は思っていたより明るいな。
地下の薄暗さと天窓のふわりとした明かりでクラシック調の落ち着いた雰囲気だ。
周囲を取り囲む柱が天井目掛けて収束していく、幾何学的な内層のデザイン。
匂いも良い。地元で取れた栗の木を使っているとあったけど、甘すぎずクセも強すぎず、いい香りだ。
用意されている家具は少ないけど、だから解放感もある。
不足分は外の工作具でDIYしろってことだろう。
「目は慣れましたか? 外から見るのと比べて結構広いでしょう。ちょっと炉にも火をつけますね」
一人暮らしとしては申し分ない広さ。友人を何人か呼んでも入れるな。
うん、このマイホームなら、この地での暮らしも楽しめそうだ。
早速契約するため、懐から筆を取り出す。
……おっと、最後に重要なことを聞き忘れていた。
「ここってWi-Fi使えます?」
孤独の竪穴式住居 イルスバアン @Ilusubaan
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