翔平さん家のデコちゃん

坂本 光陽

翔平さん家のデコちゃん


 ぼくがご主人様と初めて会ったのは、昨年の九月、よく晴れた昼下がりのこと。第一印象は、「わぁ大きい」ということだった。


 大きな手でつかまれて、ひょいと持ち上げられてしまう。ケガをした右腕は使わないで、左手だけでひょい。僕の顔のすぐそばまで、大きな顔が迫ってきた。くりくりまなこの優しい笑顔。それが、ぼくのご主人様だった。


 ご主人様はいつも優しい。暇さえあれば、ぼくと遊んでくれる。一番のお気に入りは、壁や床に赤い光点を動かしてくれること。指先でつまんだペン(レーザーポインターというらしい)をクイクイッとさせてね。


 いつもご主人様と同じベッドで寝ているし、一緒にテレビをみたり、ごはんを食べたりしている。あ、ぼくの大好物は、〇〇社のドッグフードなんだ。きっといい宣伝になると思うから、〇〇社の方はぼく宛にドッグフードを送ってね。


 ちなみに、ご主人様の大好物はドライカレー。


 実は今年になって、同居人が一人増えた。最高のドライカレーをつくる人でもある。今は正体をあかせないので、仮にA子さんとしておこう。ご主人様のお仕事が本格的に始まったので、最近はA子さんと一緒にすごすことがふえた。


 ご主人様はぼくたちに、ある役目を与えた。それは、二人と一匹で暮らす家をさがすこと。ただ、一からさがすわけじゃない。ご主人様の勤務先がリストアップをしてくれたので、ぼくたちは一軒一軒みてまわるだけでいい。


「デコちゃん、ここはどうかしら。日当たりがよくて、お庭もこんなに広い。日向ぼっこをすれば、きっと気持ちいいわよ」

「A子さん、日当たりはいいけど、通りから丸見えですワン。からいって、ふさわしくないワン」


「デコちゃん、ここはどうかしら。翔平さんの職場に近くて、キッチンがすごくきれい。料理のしがいがあるというものね」

「A子さん、キッチンはいいけれど、ベッドルームが少しせますぎるワン。大きなご主人様には、きゅうくつだと思うワン」


 そんなこんなで、ぼくたちの巣作りは、まだ始まったばかり。みんなが暮らしやすい理想的な家をじっくりさがすつもりだよ。ご主人様も、ゆっくり選んでくれればいい、と言っているしね。


 A子さんと一緒にテレビを見ていたら、ご主人様は今日も二本のヒットを打ったよ。ああ、はやくシーズンが始まらないかなぁ。翔タイムがまちどおしいワン!



                 了


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

翔平さん家のデコちゃん 坂本 光陽 @GLSFLS23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ