私は、住宅と思いを売る人情営業マン、家持と申します!

ゆる弥

住宅の内見に来た家族

 私は住宅と人の思いを売る人情営業マンをしている。

 主に中古住宅の営業だ。

 私にはポリシーがある。


 元々の家の人となりを伝えること。

 それを私は伝えることで売りに出した思いを知って欲しいのです。


 今から、住宅の内見がある。

 四人家族。

 ご両親に五歳と三歳のお子さん。

 来年小学校だから持ち家に住みたいとのこと。


「ようこそ。本日は、ご検討頂きまして、有難うございます。私、家持いえもちといいます」


「よろしくお願いします」


 ご主人様が頭を下げると皆さんが頭を下げてくださった。


「まずは玄関です。当時の防寒の最先端の設備となっておりまして、ご家族様の靴を沢山収納するスペースがあります」


「おぉー。沢山はいりますねぇ」


「前オーナー様も四人家族でした。冬物も含めてこのくらいあれば十分かと思います」


 ご主人様はウンウンと頷いていた。


「次はリビングですね。ここは十畳の広さと続くように左側にキッチンが。右側には一部屋あります」


「おぉー。広く感じますねぇ」


「えぇ! 前オーナー様が家族で団欒できるように仕切りをなるべく取り払ったんです! ここの柱にはご家族様の成長の記録が書かれています。お子様が大きくなるまでの記録。刻んでみませんか?」


「あぁー。こういうのいいですねぇ」


「キッチンはシステムキッチン。オール電化にしたそうです。子供達が火の元を扱うのが危ないからと」


「それもいい」


 ご主人様の印象は好印象ですねぇ。

 これは行けるかもしれません。


「次は洗面所ですね。扉が奥に開くタイプで人に気をつけなければなりません。ここは引き戸が良かったとおっしゃってました」


「あぁ。なるほど」


「お風呂はタイルですが四人家族ですと、今でギリギリくらいの広さかと思いますねぇ」


「まぁ、でもうんうん。リフォームしちゃえばいいんですもんね?」


「その選択も勿論ございます!」


 これは好印象だな。

 リフォームを考えているということはもう既に買う計画に頭がシフトしている。

 いけるぞ。


「トイレは階段下ですが、立つのも座るのも問題ありません! ここはスペースを上手く使うために一段下がっているんです」


「うん。たしかに大丈夫そうだ。なるほど。勉強になります」


 これはいいぞ。この勢いで二階だ。


「上は和室が三部屋と物置部屋がございます! 十畳のこの部屋にはウォークインクローゼットが! 他の部屋にも押し入れがあります」


「広くていい。ここも押し入れあり。うんうん」


「最後が書斎となってた所でして、ここでお仕事をされていたようです。前オーナーさんは先生をされていたそうで、棚には本がぎっしり入っていたそうです。生徒さんの名前は忘れたことがないとか」


「おぉー凄い!」


「わーすごいねぇ!」「いっぱい!」


 子供たちも喜んでいる。

 奥様も笑顔だ。

 今日はこれ、売れるぞ。


「こちらで最後でしたが、いかがでしたか?」


「いやー。勉強になりました! いいですね! こういう部屋割りも!」


 やった!

 畳み込むぞ!


「では、ご契約と──」

「──でも、本読まないしなぁ」

 

「あと全部、洋室がいいわね」


「なんかきたなーい!」


「虫いる」


 なにー!?

 ここにきて、ないだと!?


「柱に書いてあるのもねぇ」


「自分達のだけの方がいいわよね?」


「やっぱり新築だな。間取りは勉強になったよな?」


「トイレもね。階段下のスペースいいわね!」


「洗面所も引き戸だな!」


「「ありがとうございました!」」


 その後、家族は楽しそうに帰っていかれました。


 人の思いだけでは中々難しいですねぇ。

 そもそもこの家、新築を建てて売りに出したそうなので、思いもあったのかどうか。

 

 世知辛い世の中ですねぇ。

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