魔法少女りりす! 新居を求めて

にゃべ♪

早く住む家を決めるホ!

 トリは見た目がゆるキャラの鳥のぬいぐるみのような、魔法少女のサポートファエリー。彼は苦労の末、タイムリミットギリギリでようやく自分がサポートする少女を見つける。

 しかし、彼女は元敵側の幹部だったのだ。


「え? 住む家がないホ?」

「うん、さっきこの世界に来たばかりだし」

「どうするホ? こっちで暮らすには色んな書類とか必要になるホ」

「あ、大丈夫」


 元魔王軍幹部のリリスは、心配するトリに必要な書類を見せる。そこには住民票などの公的証書があった。さっきこの世界に来たばかりの少女がそう言うものを所持しているのは不自然だ。


「これ、偽造したものホ?」

「こんなのあーしの魔法でチョチョイのチョイよ」


 流石は元魔王軍幹部。この程度の魔法は朝飯前らしい。リリスが見せた書類はどこからどう見ても本物にしか見えなかった。しっかりチェックしていたトリは、書類のある項目に注目する。


「ん? どう言う事ホ?」

「何が?」

「名前、天王寺アリスってなってるホ」

「この国の国民ぽい名前にしたんだよ。ちなみに、リリスって言うのもコードネームだから」


 そう言って彼女はフンスと鼻息荒く胸を張る。トリは彼女が決めた名前が気になっていた。天王寺――それはかつての魔界の脅威からこの世界を守った先代の魔法少女の名字と同じだったからだ。


「もしかして、この天王寺って言うのは……」

「そう、天王寺パイセンから取ったんだよね。別にいいっしょ。あーし、パイセンに憧れてたんだ」

「じゃあ何で魔王軍の幹部になったホ?」

「あーしはパイセンみたいな魔法少女と戦ってみたかったんだよ! でもやってくるのは雑魚ばかりでさ。まだ魔王軍の方が強いやつが多かったし、それで」


 トリは思わぬところから目の前の少女が寝返った理由を知る事になった。つまり、彼女はかなりのバトルジャンキーで、敵がいないから寝返って元同僚を倒す立ち位置についたと言う事らしい。


「……やっぱりヤバいヤツだホ」


 トリは改めて彼女が見せてきた書類に目を通す。名前は『天王寺アリス』で、年齢は14歳。両親はフランス在住で、日本には1人でやってきた――と言う設定になっていた。

 全てをチェックし終えた彼は、ハァと大きくため息をつく。


「ツッコミどころ満載ホ」

「魔法でいくらでもどうにでもなるからいーの」


 実際、彼女の実力ならばどんな無茶も強引に力技でどうにでもなるようだ。来たばかりなのに、こっちの世界の知識もしっかりあるとは流石は元魔王軍幹部。様々な手練のいる魔王軍で一気にエリートコースに上り詰めただけはある。

 リリス――いや、アリスは納得の行かなそうな表情のトリを胸に抱くと、右手を高く振り上げた。


「じゃあ、物件探しにレッツゴー!」


 彼女はぬいぐるみを抱いた不思議ちゃんの体で、まっすぐ不動産屋さんに向かう。普通の子なら門前払いになるところだけど、魔法を使った事で普通に対応してくれた。


「ではまずこちらはどうでしょうか? 駅からも近いですし、日当たりもいい……」

「ふーん。悪くないじゃん」


 部屋探しは数多くの物件を見て、そこから選ぶのが一般的。アリスもまたそのセオリーに従って即決はしなかった。勧められるままに数々の住宅を内見して、一日は呆気なく終わる。


「うーん、悩んじゃうなー」

「今日はどこに泊まる気ホ?」

「ネカフェでいっしょ?」


 そんな軽いノリで、彼女はネットカフェに向かう。たくさんの漫画を積み上げて、寝るギリギリまで読書を楽しんでいた。


「やっぱ漫画はいいね。サイコーだわ」

「はぁ、先が思いやられるホ……」


 その後も内見は続くものの、アリスは中々首を縦に振らなかった。部屋探しを始めて一ヶ月。流石のトリも我慢の限界に達してしまう。


「いつになったら部屋を決めるホ」

「予算的にね。トリはいくら待ってる?」

「マスコットにたかるなホ!」


 どうやらアリスはあまり多くの軍資金を持っていないらしい。魔法でチョチョイのチョイが出来るのに、その辺りはシビアなようだ。ただ、どれだけトリが追求しても今いくら持っているのかとか、どうやってそれを得たのだとか、今後はどうするつもりなのかの話は全てはぐらかされてしまう。


「乙女には秘密があるものじゃん?」

「全く信用出来ないホ」

「逆にね、あーしもトリりん信用してないし」


 そんな感じでお互いに信頼関係が築かれないまま、アリスはまた別の不動産屋に向かう。今はネットで簡単に部屋探しが出来ると言うのに、彼女は実際に物件を見て確かめる事を重視していた。


「やっぱ実際に体験してナンボっしょ」

「ボクは早く決めて欲しいホ」


 そんな感じで雑談しながら歩いていると、急に回りの気配が怪しくなる。どうやら魔界に通じるゲートが開いたようだ。それを感じ取ったアリスは、すぐにステッキを具現化させた。


「マジカルチェンジ! 魔法少女りりす!」


 真っ赤でキラキラの衣装に身を包んだ彼女は、超スピードでゲートの出現場所に飛んでいく。その様子を目にしたトリは目を白黒させていた。


「変身2回目でもう飛行魔法を使いこなすなんて、やっぱり規格外ホ……」


 トリは鳥型のマスコットなものの、基本的に飛ぶのは苦手。なので、走ってりりすの後を追った。周りから不審がられないよう、認識阻害の魔法を自分にかけて。

 一方、一足先にゲートに辿り着いたりりすは、すぐに封印魔法でゲートを閉じた。


「マジカルフリーズ! 間に合った!」


 彼女は自分の仕事に自己満足して視線を下げる。すると、そこには全長3メートルほどの凶暴そうな姿の魔獣と、襲われかけている女性の姿が目に飛び込んできた。


「嘘?!」


 リリスはその場でステッキを振って魔弾を魔獣に当てる。その威力は大きくなかったものの、攻撃対象を女性から魔法少女に変える事には成功した。

 魔獣はりりすをにらみつけると、大声で威嚇する。


「ガアアア!」

「来な! 魔獣ごときあーしの敵じゃないから!」

「ガフッ!」


 魔獣は大きく口を開けて魔炎を吐き出した。火を吹くタイプだったのだ。りりすはステッキをかざして無詠唱で魔法防御壁を展開する。その壁によって魔炎は四散。

 無事に攻撃を防いだところで、りりすは地上に降りて両手でステッキを握る。


「あんた相手にはやり過ぎかもだけど……レッドインパクト!」


 呪文と供にステッキの先で生成された赤い魔力の塊は、存在が確定された瞬間に瞬間移動かと思うほどの一瞬で魔獣の体にのめり込んで爆発。反撃の隙も与えずに魔獣の命を奪った。

 倒れた魔獣の遺体は、ゆっくりと原子レベルで分解されていく。


「らーくしょう!」


 ひと仕事終えた彼女は得意顔でサムズアップ。変身を解かないまま、襲われかけていた女性に近付いた。


「大丈夫?」

「へぇ、今の魔法少女もやるじゃない」

「えっ?」


 魔法少女は認識阻害の魔法も含めて、安全と機密保持のために普通の人の記憶には残らないようになっている。普通なら魔法少女の存在すら知らないはずなのだ。なのに目の前の女性は魔法少女の存在を知っていた。知っていただけじゃなくて普通に魔法少女と言う存在を受け入れている。

 この展開には、さすがのりりすも戸惑ってしまった。


「あなたは……?」

「フフ。私も魔法少女だったの。引退したけどね。今はあなたみたいな新米のサポートも趣味でしてんのよ」


 そう、彼女は元魔法少女。だからりりすの事もすぐに分かったと言う訳だ。魔獣が襲ってきたのも、彼女が危険だと認識されたからかも知れない。

 そこにようやくトリがやってきた。


「もう戦いは終わったのかホ? 早すぎるホ」

「あらトリちゃん。ちゃんとサポートマスコットになれたのね。おめでとう」

「えっ? もしかして由香ホ?」


 トリは、自分の事を知っているこの女性に見覚えがあった。そして、その名前からりりすも女性の正体を推測し、反射的に口に手を当てる。


「由香ってまさか……あの伝説の最強魔法少女、天王寺由香パイセン?」

「何それ大袈裟。私が魔王を倒せたのは仲間の協力があったからだよ」


 女性、由香はりりすのリアクションに苦笑する。そして、改めて彼女は目の前の魔法少女に向き合った。


「りりすちゃん、何か困ってる事はない?」

「あの、まずは元に戻りますね」


 憧れの存在を前にして、りりすは変身を解いてアリスに戻る。それで自己紹介をしつつ、当面の問題の住居の事について相談した。


「な~んだ。じゃあ私の家に一緒に住も。今一人暮らしだから同居人が欲しかったんだ。名字も同じだし、いいと思わない?」

「いいすか! アザッス!」


 こうして魔法少女りりすこと天王寺アリスは、先代最強魔法少女の天王寺由香の家に下宿する事になったのだった。



(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女りりす! 新居を求めて にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ