後編
2045年。
その年、神奈川県はとある「生命体の襲来」により火の海と化し、そして――消滅した。
相模湾沖に突如現れたその巨獣は、海上から箱根へと上陸し、地ならしと口からの高熱線を放ちながら市街全域を蹂躙。
「ゴジラ」と命名されたその怪獣は、そのまま弧を描くようにして移動し、鎌倉、横浜一帯をも破壊。神奈川の地は、瞬時にして焼け野原となった。
この不測の事態に、政府は自衛隊ならび厚木・横須賀米軍にも協力要請を仰ぎ、これに対抗。数日間にも及ぶ死闘を繰り広げ、ゴジラの首都侵攻を退ける。だがゴジラの息の根を止めることはできず、後退させるに留まるのみとなった。
当初は海中へと帰還を促すのがベストと思われていたが、それでは最終的な解決には至らない。加えて今後、いつまた来襲するかも不透明。そう考えた政府中枢は、米軍が独自開発を進めていたという核爆弾と同等の威力を持つ「新型爆弾」を使い、ゴジラに対抗することを決断。
横浜から再び芦ノ湖方面へと移動するゴジラのルートを先読みし、生存する神奈川県民を全て非難させたうえ、作戦を実行に移す。
内容は芦ノ湖近郊の地下に設置した複数の新型爆弾を、ゴジラの到達に合わせ、爆破。そして波状攻撃のごとく液体窒素と催眠ガスを体内に大量投入し、爆破により埋没した地下へと閉じ込めるという規格外なモノ。
けれど結果は見事功を奏し、ゴジラの侵攻を阻止するに至った。
だがその代償として――神奈川県ほぼ全域が、焼け野原に。
日本で端を成したこの世界的とも呼べる災害危機により、政府は神奈川の地と引き換えに、怪獣ゴジラを封印した。
都市の規模としては東京に次ぎ、国内第二位であった横浜。そんな経済としても、観光地としても名を成していた都市を有する神奈川県の人口は、今となってはもはやゼロ。
かつての栄光は完全に喪失し、今やヒト一人として住むことのない「住宅の無い県」として――2050年現在は、全域がバリケードに囲われた政府直轄の「ゴジラ専用研究特区」となっていた。
これまでの研究の結果、ゴジラの組織細胞は異常なまでの再生能力を有しており、それは一定の温度を持つと活性化することがわかっている。とはいえその生態は未だ不明瞭な点が多く、さらに高濃度の放射能を有していることから、今現在も尚専用のパイプラインを使い液体窒素を流し続けているとのこと。
政府は「安全宣言」を公布し、あれから五年の月日も経過していることから、ゴジラは完全に息絶えた――そう、国民には認知されている。
だが実際はどうなのか、宣言以上の具体的な情報は開示されてはいない。
技術の進化により、変化の流れが早い今。
五年という歳月は、巨獣の襲来など忘れたかのよう。
「もう、心配は無いだろう」
あの日のことは、今も忘れない。
五年前の「対ゴジラプロジェクト」に直接携わった身として、この先の平穏は保たれたと、確固たる自負はあった。
「それじゃあ美波、出発するか」
「はーい!」
前回の内見から、一ヶ月後。
回想に終止符を打ち、父は娘を乗せ、車を発進させた。
◆ ◆ ◆
「ブーーーーーン」
寝静まった闇夜を旋回する、不穏なる一基の機体。
「ンヘヘ」
「よし、上手くすり抜けたぜ」
少年はほくそ笑み、順当に操縦を進めていた。
数ヶ月もの極秘研究を続けてきた成果が、今まさに。
小型ドローンは高濃度の催眠ガスを噴出させながら、セキュリティゲートをくぐり抜けていく。
すると、ひと際厳重に管理されたゲートが出現。
その「人体認証」のセンサーを前に、少年の操るドローンは専属研究員の容姿コピーを空間上に投影させる。
『ニンショウ、サレマシタ』
セキュリティを掻い潜り、発進。
だが再び、続いてのゲートへ。
今度は現れた「暗証番号画面」に対し、ドローンはその頭上から砲口を出現させ、謎の白い粉を噴出させる。
浮き出た指紋。するとドローンの両端から鋼鉄のアームが出現し、手慣れた人間のように番号を入力していく。
『ニンショウ、サレマシタ』
その後同様のゲートを二度くぐり抜けた後、ドローンは最深部へ。
そして――ポチッ。
ドローンはとある停止ボタンを押したのを最後に、動きを停止した。
「………………」
「………………グッ」
「………………グゴッ、ゴゴゴ」
凍てつく冷気の流動が止み、徐々に形状を変更し。
石像のように佇んでいた巨獣に、熱が宿る。
花火が打ち上がったかのような鼻息が一つ、地を揺らし。
化石と化していた瞳がギラリ、光輝を放つ。
◆
深夜二時。
神奈川の地に。
月を震い落とすほどの。
雷鳴のごとき轟音が、鳴り響いた。
了
ゴジラ2050 七雨ゆう葉 @YuhaNaname
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