ゴジラ2050
七雨ゆう葉
前編
澄み渡る空の青を、鈍色に埋め尽くすように。
「「「ブーーーーーン」」」
縦横無尽に高速旋回する、幾十幾百もの無人航空機たち。
2050年。もはやドローンによる配送は当然の伝達手段と化し、高速道路を走るトラックの数も心なしか、減少しているように思える。
「お父さん、あとどのくらい?」
「そうだな。この調子ならあと小一時間って所か」
「それより美波。東京行って、本当に一人でやっていけるのか?」
「もう、お父さん心配し過ぎ」
「だし今日は、ただの内見なんだから。ねっ、お母さん」
「そうね。でもまあ、大丈夫なんじゃない。この子割と度胸あるし」
「だけどな、お前……」
やはり一人暮らし、且つ二十歳にも満たない娘を都会に出すというのは、不安が募る。
だがそんな自分の心配をよそに、上京を目前に浮足立った様子の娘と、東京観光に胸を躍らせる妻。
そうして家族三人を乗せた地方ナンバーはインターチェンジを抜け、徐々に減速していった。
「ここ、だよな」
その後一行は、目的のマンション前へと到着。
「あ、おはようございます」
すると資料の入ったファイル片手に、こちらに向け手を振るスーツ姿の男性が。今回は東京観光も兼ねていたために、事前に不動産の営業担当とは現地集合でと口約していた。
「お待ちしておりました」
「では、こちらへどうぞ」
青年に案内されるまま、家族三人は候補となる物件へと歩を進めた。
東京都大田区、某所。区部南部に位置するこの地域は、東京都心と神奈川県を結ぶ鉄道路線や区内を横断する鉄道が通っており、また羽田空港の玄関口でもあったりと、陸空それぞれの交通便において割かし優れた土地。また、春から娘の通う予定の大学までも、片道三十分圏内だ。
さらに言うと、じつはこの地域はつい数年前まで。
自身が仕事のため、赴任で住んでいた地域でもあった。
「へぇ、結構綺麗じゃない」
「ワンルームで、バストイレは別か。そこまで狭くもないし、悪くはないな」
心配は募りつつも、物件内は想像以上に整った造り。学生が最低限の生活を送るには何の申し分もない。
妻と共に感心しつつ見渡していると、途中娘が、訝し気な表情を浮かべ尋ねる。
「すいません」
「ここはその……Gって出たりします?」
「そ、そうですね。正直絶対に、とは言い切れませんが……。ですが今のところ、そういった声は聴かないですかね。ここはゴミ捨て場のルールも厳格ですし、築年数自体もまだ五年ですので問題はないかと」
「そうですか。あ~、良かったー」
「それより注意すべき点は、防犯面ですね。これはどの物件にも言える事なのですが……入居したらまず、カーテンの取り付けをおすすめします。それも一般的な素材のモノではなく、昼夜外から見えにくい断熱遮光カーテンで」
「えっ、普通のじゃダメなんですか?」
「はい。最近はドローンを使った犯罪が増えてきておりまして。特に一人暮らしの女性を狙った盗撮被害なんかも目立ってきておりますので」
これも、心配な理由の一つだった。今でも外を見やると、数基のドローンが上空を旋回している。インターネットや無料動画から素人でも知恵を付けることのできるようになった昨今、ドローンを使ったあらゆる間接的な犯罪が、増加の一途を辿っていた。
「これじゃあ洗濯物はベランダで干せないな。ドラム式洗濯乾燥機も買ってやらないと」
表面的には未だ躊躇しておきながら、先々の生活を現実的に想像している自分もいて、複雑な性分。
「ねえお父さん。私、ココにしたいかも! どう思う?」
「ああ。まあ……そうだな」
「築年数五年でこの値段なら、だいぶお手頃なんじゃない。私は良いと思うわ」
「だよね! お母さんもそう思うよね!」
賛同に寄せつつ言葉を濁し、矛先を妻に預けると、一人ベランダへ。
そして。一人じっと、外の景観を眺めた。
「あれからもう……五年、か」
そっと呟きながら、どこまでも開けた空を仰ぎ見る。首都東京からの眺望とは思えない。
「確かあの辺りは、ランドマークタワーやみなとみらいのビルがあった場所……」
数メートル先に見える、坂の上にある公園。
五年前の当時は、あの場所から横浜夜景が一望できる隠れた名所だった。
そう――五年前までは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます