【KAC20242】ナイケンで内見に行くけん

龍軒治政墫

ナイケンで内見に行くけん

 不動産屋の営業とやってきたのは、博多区の住宅街。

 今住んでいるところも悪くは無いのだが、移動手段が無いとちょっと遠くに行くのが辛いので、もうちょっと公共交通機関が近い物件を探していたのでありまして……。

 不動産屋さんの若い営業は「それならいい物件が有りますよ!」と自信満々に言う物で、来た訳ですが……。


「ん?」


 ヤマハ・ナイケンを降りてもう一度よく見てみたが、そこはどう見ても空き地だったのです。


「俺の目が悪ぅなったとかいな。住宅がなぁーんも見えんっちゃけど」

「あるじゃないですか」

「どこにね?」


 どう見ても、住宅は無い。

 ひょっとして、馬鹿には見えない住宅なのでは……? そんな裸の王様的な物件、現代にあるわけがない。


 これはためされているのかもしれない。

 とりあえず玄関が有りそうなところで、ドアを開ける動作をした。当然、ドアハンドルの感触なんて無い。

 だが、俺には見える。立派な住宅が!


「いやぁ……立派な住宅やねぇ」

「そんな訳ないでしょ。馬鹿にだけ見える住宅じゃないのですから」

「馬鹿にしとうとね!」

「お客様、足元をよく見て下さい」

「ん?」


 足元を見れば、四角い切れ込みと金属。その金属には取っ手が付いていた。


「んん?」

「開けてみて下さい」


 取っ手をつかみ、その重いフタを持ち上げる。見えたのは、ハシゴだった。下の方に深く続いている。


 降りていくと、そこは地下住宅になっていた。窓が無いだけで、他の見た目は普通の住宅の間取りをしている。


「ほら、ここは手榴弾110番が有るような修羅の国じゃないですか。なのでオーナーさんが耐爆住宅を作ろうと、このような家になりまして。安心して下さい。手榴弾の爆発にも耐えられますよ?」


「いや、手榴弾とか、安心できんよ! それに近い物件じゃなくて、地下い物件やし。こげな危なかとこ、住めんやろうもん。すまんばってん、今回の話は無かったことにしちゃらんね?」

「パーですか。パイナップルだけに」

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