第3話 大好きだったよ。
「どこにいっていたの。早く片付けなきゃ。」
姉の家に戻ってみれば、少し落ち着いた母が問う。
「あめ玉屋。」
それだけ言って、ゆうなちゃんが開けられない小瓶を開けて、きっとソーダ味のあめ玉を入れる。
ゆうなちゃんの、遺品の中に、たくさんあるはずのあめ玉を食べた幸せを私は探し始めた。
これはお姉さんとお義兄さんと公園で遊んでいる絵だろうか。公園が大好きだと聞いていた。
きっと幸せだった。あめ玉を一つ、きっとリンゴ味。
ゆうなちゃんが大好きな魔法使いのアニメのキャラクター。このアニメを見ている時、ゆうなちゃんは本当に楽しそうだった。
あめ玉をまた一つ。きっとパイン味。
部屋の中に、ゆうなちゃんの幸せがいっぱい。うさぎの形のリュックサック。誕生日に私がねだられて買ってあげたもの。本当に嬉しそうで、買った時より、汚れたそれに、たくさん使ったことがわかる。あげて良かった。
あめ玉をまた一つ、きっとブドウ味。
衣服の中に、シンデレラの衣装。お母さんに買ってもらったって喜んでいた。嬉しそうに着て、ポーズをとっていた写真が私にも送られてきた。とても可愛かった。
あめ玉をまた一つ、きっとミカン味。
冷蔵庫の中に、2粒、腐ってしまったイチゴがあった。ゆうなちゃんが大好きな果物。「高いから困るのよね」そう言って笑っていた姉さん。きっと食べられた。嬉しかったよね。
あめ玉を探す。きっと、これはイチゴ味。
あめ玉をたくさん入れた。瓶いっぱいに入れた。部屋の中だけでもいっぱい。ゆうなちゃんの幸せがいっぱいあった。
「お母さん、お父さん。ちょっと、こっち来て。」
「なによ。」
少し不機嫌そうな母と、無言の父が部屋の真ん中に集まった。
ゆうなちゃんがあまり好きじゃなかった、抹茶味のあめだけは、瓶に入れなかった。三つだけあった。
「私たち、お姉さんに会えてよかったよね。」
お母さんに一つ、あめ玉を渡す。
「お義兄さんと結婚出来て、本当によかったよね。」
お父さんに一つ、あめ玉を渡す。
「ゆうなちゃん、絶対に幸せだったよね。」
最後のあめ玉は私に。
「ゆうなちゃんの大好きだったあめ玉だから、私たちも味わおう。これは、苦手だったやつだけど。」
そう言ったら、お母さんは泣き出した。お父さんは口に放りこみ、作業に戻った。
私はゆっくり味わいながら、ゆうなちゃんの幸せがたくさん詰まった部屋を見渡した。
墓前に持っていこう、この小瓶を。あっちにもたくさん幸せを持っていけるように。
抹茶味のあめ玉はゆっくりと舌の上で溶けていった。
幸せのあめ玉 K.night @hayashi-satoru
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