第2話 ソーダ味

「ちょっと出てくる。」


 私は泣いている母と、何も語らない父を置いて、外へと駆け出した。


 あめ玉専門店なんてそんなにあるもんじゃない。スマホで調べてみたら、その店はすぐに見つかった。


 老舗そうな看板に「大門寺飴店」と書いてあった。中に入ると、昔入った駄菓子屋を思い出した。茶飴、イチゴ飴、ハッカ飴、色とりどりのあめ玉が袋詰めされていてところ狭しと並んでいる。


「いらっしゃいませ。」


 そう優しく言ってくれたおばあさんはとても優しそうに笑ってくれていた。


「あの、あめ玉が欲しくて。あの、この小瓶に入っている飴。」


「あら、懐かしい。これね、1年前のホワイトデーに特別に作ったもので今はもうないのよ。」


「あの、中身、中身だけでいいんです。その、これが姪っ子大好きで、あの、ゆうなちゃんっていうんですけれど。」


 おばあさんはハッとしたように口を覆った。


「あの、ごめんなさい。ないんですよね。」


「ちょっと待ってて!」


 そういうとおばあさんは調理室の方へ行った。遠くから、「あんた!あのあめ、ほら、ホワイトデーの!」という声が聞こえる。


 しまったな、と思った。勢いで来てしまったけれど、迷惑だった。お客さんが一人、二人とやってくるがおばあさんは帰ってこない。私はレジ前で申し訳ない気分になっていた。


「お待たせしました。」


 そういうと透明な袋に入ったあの、あめ玉を持ってきてくれた。


「残りもので悪いんだけど、大丈夫だから。」


 そう言って、あめ玉の袋を私の手に握らせた。力づけるように何度も握りながら。


「ありがとうございます。あの、おいくらで。」


「いいんだよ、もっておいき。」


「でも、悪いです。」


「ゆうなちゃんは、うちのお得意様だよ。」


 職人さんの手ってどうしてこんなに暖かいんだろう。おばあさんの眼は涙を溜めていた。空っぽだったはずの私の中に、ありがとうの液体が溜まっていく。


「ありがとうございます。」


「うん、ゆうなちゃんに、よろしくね!」


 こんな近くだ。きっと、ゆうなちゃんの事故をあの人もきっと知ってるんだろう。私は涙を拭きながら姉の家へと戻った。


 ゆうなちゃん、私、今一つ幸せだったよ。


 空が絶好調の青空で、こんな日、ゆうなちゃんは「外で遊べる」と喜んでいた。


きっとソーダ味の水色のあめ玉を、まずはあの小瓶に入れよう。

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