幸せのあめ玉
K.night
第1話 幸せのあめ玉
不幸が事故のようにやってきた。姉の佐々木一家が車の事故で、3人全員亡くなったのだ。
「どうして、こんなことに。」
母は、姪が残したぬいぐるみを持って泣いている。葬式まで、大変だった。泣く暇もないくらい、しなければならない手続き、警察の調書、示談の話まで早急にやって来て目が回った。
最大限綺麗にしてくれたけれど、ぐちゃぐちゃの3人の遺体に私はすべての力が抜けるとはこういうものかと知り、号泣した。
遺品の整理まで、早くしなければならないとは本当に何事なのだろう。賃貸だからだ。理由にならない。
部屋に飾られた家族写真。姪の佐々木ゆうなちゃんはまだたったの5歳だった。胸の中で、何かが膨らむけれど、もうその中に液体が入っていなかった。初めてできた姪で、私はかわいくて仕方なかった。
ふと手が止まる。薄いピンクの、コルク蓋の瓶。姪の小さい手が、両手で持つくらいの。
「これね、幸せの小瓶なの。」
在りし日の姉と姪との思い出が蘇る。
「ゆうなはね、幸せを見つける天才なの。」
「これがゆうな、幸せだったのー、って言うとママが一つくれるんだよ。」
「わあ、素敵な瓶だね。」
「すごくおいしいんだよー。」
ゆうなちゃんはモジモジしながら私のところにやって来て、かわいいお尻をちょっと座っている私に押し付けた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん今日、ゆうなに会えて、幸せー?」
「もう本当に!とっても幸せだよ!!」
「じゃあ、あめ玉あげるー!」
そういうとゆうなちゃんは嬉しそうに小瓶を姉に持っていき、自分では開けられない小瓶を開けてもらっていた。一つ手に取って、ゆうなちゃんはキラキラした目で姉をまだ見ていた。
「もう、ゆうなは本当に頭がいいわね。」
姉はもう一つあめ玉を出した。
「やったあ!」
ゆうなちゃんがまだ小さい手で、私にあめ玉を渡した。
「一緒に食べよー。」
「ありがとう。」
貰ったあめは薄いピンクの小ぶりの飴で、口に含むと小さいとは思えない甘酸っぱい甘さが広がった。
「おいしい!」
「でしょー?ゆうな今日はパイン味だった。お姉ちゃんは?」
「私はイチゴ味!」
「はあ。幸せねぇ。あめ玉食べれて、ゆうな本当に幸せだなあ。ねぇ、ママ。」
「その手には乗りません。」
「でも、本当においしい。私、あめ玉の概念変わったかも。どこで売ってるの?」
「近くにね、老舗のあめ玉のお店があるのよ。」
「あめ玉専門?それはすごい。」
「ママ―もう一個!」
「だあめ。」
「ケチ―。」
「まだあめ玉残ってるじゃない。」
私はふてくされたゆうなちゃんの頬を膨らませているあめをツンツンとつついた。そしたら、ニコッって笑った。
あめ玉は随分減っていた。ゆうなちゃんは間違いなく、幸せな時がたくさん、たくさんあったのだ。
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