最終話 夢を見ない
手を伸ばす。伸ばした先には眩しく光り続ける太陽があった。
その太陽に手が届くことはなく、身を委ねられることもない。そのことにどこかホッと安堵する。
太陽に伸ばした手が届いてしまったら。太陽に身を委ねてそのままにされてしまったら。そんなもの良くないと思っている。私は確かにこの足で歩きたい。それが願いだから。
手をしばらく伸ばし続け、そしてぎゅっと太陽を握りつぶすような形にする。そしてまた開いたときには、私を呼ぶ友人の声が聞こえたから、友人の許へと歩いて行った。
「絵羅ちゃん、今年こそは祝わせてね!」
「夏休みに入っているからいいのに……」
「祝わせてよ~! 別に嫌々やっている訳じゃないよ?」
「そっか……」
「そうだよ」
「まあ、ならお願いしようかな」
「任せて! 今年はとても豪華な誕生日にするね!」
「ちょっと怖いなぁ……」
「なんだとっ!」
「ふふっ、嘘だよ。頑張って」
「もちろん!」
友人と話す白雪絵羅はとても穏やかに、朗らかに笑っている。その姿にはもう、悪夢に怖がる姿はいない。前世に罹った病気に怯え、早く夢を見たいと願う少女はいない。
そこには毅然と立って、楽しそうに笑う少女がいるのみ。
例え前世のことを夢想したとしても。前世に戻りたいとは思わない。前世に今の姿で存在したいとは思わない。きっと、ただ思い出して、浸るだけ。
それさえできれば、きっと彼女はもう怖くない。
シンデレラは夢を見ない。それが例え束の間の天国だったとしても。その夢に溺れてしまえば、壊れていくことはわかっているのだから。
シンデレラは夢を見ない 市之瀬 春夏 @1tinose_
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