守りたい、兄の愛

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守りたい、兄の愛

 高校生・石原悠人ゆうとには、三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、小学生の妹・綾瀬あやせ未歩みほの元に駆け付けることだ。

 スマホのGPS情報で未歩の位置は確認できている。ならば悠人にできることは、一秒でも早く彼女を保護することのみだ。

 悠人はスマホをポケットにしまいつつ、脳裏に焼け付けた地図を想像しつつ距離を目算する。

(距離は2.5kmってところか)

 と。


 ◆


 放課後の通学路は、朝とは違う穏やかな空気に満たされている。

 通学路には自転車やバスで帰る生徒も多いが、朝のようなせわしさがないのは時間に余裕がある為だろう。

 そんな中、一組の少年少女の姿があった。

 少年は、ぶっきらぼうに見えた。

 目元が釣り上がっており、どこか近寄り難い雰囲気を感じさせる顔立ちをしている。野良猫の様なその表情は、彼の生来の性格から来るものなのだろう。

 学生服の上から第二ボタンまでを外し、少し着崩した制服は、彼の性格を表しているようだった。

 名前を石原いしはら悠人ゆうとという。

 隣には、小柄な少女の姿がある。

 愛らしい容姿が魅力的な少女だ。

 身長は中くらいで、やや細身の体型をしており、顔立ちは可愛らしく、大きな瞳が印象的で、髪は柔らかな質感の茶色で、肩までの長さでさりげなくウェーブがかかっていた。

 名前を渡辺真由まゆという。

「石原君。今日の数学だけど分かった?」

 真由は、悠人を見ながらそう聞いてきた。

「……いや。俺、数学が苦手なんだよ。ここんとこ、調子が良くねぇし」

 悠人は、少しばつが悪そうな様子でそう答えた。彼は数学が苦手で成績も芳しくない。

 しかし、真由はそんな悠人の答えに、意外そうな表情を見せた。

「そうなんだ。じゃあ、これから一緒に図書館で勉強しない?」

 その提案に悠人は驚いた。

 悠人にとって願ってもないことだった。

「それは、い……」

 悠人は言いかけて、自分のスマホが鳴る。電話ではなく情報更新を知らせるものだ。

 真由と話の途中ではあったが、その着信音は重要なものの為、急いで確認する。

 それは防犯アプリで、地域における不審者情報を知らせるものだ。

 情報によると、小学生の女子児童が不審な男に声をかけられる事件が数件発生しているという。

 真由は、それを覗き込む。

「怖いね」

 怖々とした口調で真由は言うが、視線は悠人の横顔に釘付けだ。彼女は悠人が自分を安心させてくれる台詞を期待していると、彼のスマホに別の着信音が入った。

 悠人は届いたショートメールを開く。

 妹・綾瀬未歩からだ。

 悠人は母親の再婚に伴い、血の繋がらない小学生の妹ができたのだ。本来なら悠人は綾瀬という姓に変わったのだが、姓を変えたくないという意向を示した為に石原としている。

 そして、妹ができたことで悠人は自分が重度のシスコンであることに気づく。

 一時期は自分がロリコンという異常性癖ではないかと思ったことがあったが、未歩のことを性的対象には見ていないことを自覚できたことで、自我を保つことができた。

 未歩に対する想いは、幼い存在や可愛い者を守りたい父性本能に近いものだと自分に言い聞かせることで、今の良好な兄妹関係を築けている。

 そして、届いたメールの文面を確認する。


《お兄ちゃん。変な人がついてくるの》


 たった一言だったが、悠人にはそれがどんな意味を持つのか瞬時に理解できた。

 次の瞬間、悠人は自分の血液が沸騰するかのような憤怒と危機感を覚えた。

 心臓の鼓動は早鐘を打ち、呼吸は浅く速くなる。まるで赤く燃え盛る炎が彼の血管を駆け巡り、血液を沸騰させているようだ。

 顔には熱い血潮が巡り、脈動する青筋がはっきりと浮かび上がる。

 眼球には炎のような怒りが宿り、まるでそれだけで周囲の空気までもが熱くなるかのようだった。彼の手は握り締まり、指先からは熱さが漏れる。

 悠人は、カバンをその場に捨てる。

 まるでゴミでも捨てるかのよう。

「い、石原君……」

 真由が怯えたような声を出している。

 しかし、今は彼の耳には届かない。

 悠人はしゃがみ込むとスニーカーの結び目を確認する。走っている最中に靴が脱げないようにする為だ。靴紐シューレースは飾りではない。その役割は、シューズと足を一体化させること。

 悠人の靴紐シューレースの結びは蝶結びではなかった。オーバーラップシューレーシングと呼ばれる結び方だ。

 靴紐の交差が靴の内側にできるので、シューズのベロをしっかりと抑え込むことができ、足の甲へのホールド感がアップする。瞬発力が求められるスポーツや、フットワークが必要なアスリート、短距離ランナーに向いていると言われている。

 悠人の母は、ボクシング、元日本女子ミニマム級チャンピオンということもあり、教わったのだ。

 怒りのあまり興奮状態にある為か、鼓動はより早く脈を打ち、今にも血管が破れそうだ。

 アイドリングは、十分に整っていた。

 悠人は、そんな自身の状態を冷静に判断しながら、スニーカーの結び目を確認する動きに淀みはない。これによって、靴底と足とが固定される。

「妹が呼んでるんだ。じゃあな渡辺」

 述べると、悠人は駆け出す。 

 それはまたたく間の出来事だった。

 その速さは常人のソレではない。地面を爆ぜるように踏み出す足がアスファルトを砕き、弾丸のようなその体が空気の壁を打ち破り破裂音にも似た爆音を鳴らす。

 そして、残像を置き去りにする速度で一気に駆け抜けた。

 すれ違い様に見えたのは、真由が恐怖に顔を歪める姿だった。

 しかし、悠人はそれに構うことなく走り去った。

 真由は取り残された状態で立ち尽くしながら、悠人の背中を呆然と見詰めることしかできなかった。


 ◆


 未歩のGPS情報は悠人の居た場所からそう離れていない場所を示している。

 悠人はその情報を頼りに、全力で走っていた。

(クソ!)

 と内心で悪態をつきながらも、表情は冷静だ。

 そして冷静に周囲の状況を確認している。

 通学路には下校する生徒の姿が多く、その中で慌ただしく走る悠人の存在は殊更目立っていた。

 誰もが何事かと思い足を止めて、彼に視線が集まる。

 彼は、それを意に介さない。

 今は少しでも早く未歩の元に辿り着くことだけが重要だからた。

 幹線道路を配達作業をしていた宅配ドライバーは、お気に入りの音楽を聴きながら運転していた。

 最近流行している女性ボーカルユニットの曲で、その曲名はBorn To Be Wildワイルドに行こうぜという歌詞が印象的で、宅配ドライバーはこの曲を聴けば元気になる。

 しかし、そんな気分をぶち壊しにする存在が現れた。

 サイドウインド横に必死の形相で走る学ラン姿の少年だ。

 彼は鬼気迫る表情で、何事かを呟きつつ猛烈な速度で自動車と並走している。

 いや、徐々に自動車の速度を超えて抜きに出ている。

 運転手はスピードメーターを確認する。

 制限速度50kmを厳守している。

 世界最速とされるウサイン・ボルトは2009年のベルリン世界選手権・男子100mで9秒58を記録。史上初めて9秒60を切った。およそ時速37.6km/hという驚異的な記録を持っいる。なおトップスピードは9秒58の世界記録を出したレースの65m地点で時速44.17km/hに達しているが、常時速度を維持している悠人はそれを凌駕していた。

 運転手は、その常識外れなスピードで走る少年に恐怖と焦りを抱いた。

(なんなんだ! こいつは?)

 恐怖と焦りは運転手から冷静さを奪うが、次の瞬間には少年の姿が消えたことで安堵する。

「俺、疲れてるんだな」

 そう思った。

 悠人は走る。

 ひたすら走る。

 周囲の景色が高速で通り過ぎる中、彼は幅12mもある川を正面に迎える。

 迂回し橋を渡っている余裕はない。

「俺は鳥だ!」

 悠人は自己暗示に近い思い込みをする。

(人間は思い込むと。焼けた火箸を押し付けられた時、本当に火傷をするという(←当たり前のこと)。なら、自分が飛べると信じることで、本当に飛べる!)

 悠人は極限のあまり自分が何を言っているのか破綻しつつも、その思い込みを体現するかのように彼の体は更に加速した。

 重力を振り切るように空を駆けるイメージを持って走ると、体が軽くなるように感じる。

 川の手前で地を踏みしめると、身体を深く沈めた。

 脚だけの筋力を使うのではない。

 腰、背中、肩の筋肉を同時に稼働させ、爆発的な瞬発力を生み出す。身体そのものをバネとし、全身を一つの塊にして跳躍する。

 それは人間の移動の限界を超えた動きだった。

 悠人の踏んだアスファルトが砕け、彼の姿が消えた。

 その川で釣をしていた老人は、ふと空を見た。

 空に何かが飛んでいた。

 飛んでいるのだから、鳥だと思ったが、そうではない。

 はっきりと人の形をした物体が、空を飛んでいるのだ。

 老人は我が目を疑うが、その光景は紛れもなく現実だ。

 悠人は宙を跳んでいた。

 いや、宙を翔ていたと言うべきだろう。

 人間に許された速度を遥かに超えて、彼は加速していた。

 地面を駆けるより速く空中を駆ける存在など人智を超えていた。

 そんな超人的な動きを為し遂げる少年・石原悠人が考えていたことはただ一つだった。

(未歩!)

 最愛の妹のことだけを想いながら飛ぶ。

 もう対岸が目の前だ。

 悠人は対岸に着地すると、地面を転がり衝撃を分散させ勢いを殺した。

 男子走幅跳世界記録はマイク・パウエルの8m95cm。

 それを悠人は、3mも上回ってみせた。

 老人は人間が飛んでいるのをみて、妻に携帯電話を使って連絡をした。

「婆さんや。ワシは、お迎えが来るかもしんねぇ」

 老人はそう言うと、釣りを片付け、よぼよぼと妻の元に帰っていった。

 悠人は、着地と同時に未歩の位置をGPSで確認。

 自分が長距離を疾走している間も、情報に更新され続けていることを考慮する。GPSなので動いている感じはなかったが、悠人には動いていたのが分かった。

 それは未歩が逃げていることに他ならない。

(未歩……)

 悠人は2kmあった距離を僅か144秒で到達していた。

 残り500mを詰めるべく、再び駆け出した。


 ◆


 ランドセルを背負った女子児童が歩いていた。

 身に纏っている衣服は、紺色のセーラーワンピースだ。襟元に赤いリボンタイを付けており、正しく着用している様子から真面目な性格が想像できる。

 腰の下まである長い黒髪をポニーテールにし、顔立ちも幼いながらも整っていた。

 髪は、それ自体が微かな輝きを放っていた。先端には軽やかな動きがあり、風になびくたびに優美な動きを見せる。

 顔は繊細で整った特徴を持っており、その瞳は清らかな泉のような透明感があった。その深奥には知性と純真さが宿っているように感じられる。

 肌は白く、ふんわりとした桃色の頬が愛らしさを引き立てる。小さな鼻とくちびるは程よくプクッとしており、春の陽光のように暖かく、周囲の人々を心地よい気持ちにさせる。

 彼女には何か特別な輝きがあり、見る者全てを引き込む魅力がある。

 小柄な体型だが、成長期を控えた彼女はこれからもっと美しくなるだろうことが予測される。

 名前を綾瀬あやせ未歩みほと言う。

 未歩は友達と談笑しながら帰宅していたが、その友達と道で別れて、一人で歩いていた。

 すると、未歩は視線を感じるようになった。

 最初は気のせいだと思った。

 だが、視線は度々感じるようになり、未歩の心に不安が生まれた。

 そして今、背後に人の気配を感じて振り返った。

 すると電柱の陰に、見知らぬ男が立っていた。

 男は中肉中背で、顔はサングラスとマスクで隠されている。顔は分からないハズなのに表情は分かったのは何故だろう。彼は、未歩を欲情した目で舐め回すように見詰めていた。

 気持ち悪い。

 それが未歩が男に抱いた印象だった。

 男は、未歩と視線が合うとニヤッと笑って見せた。

 その笑みに怖気立ち、後ずさると、早足でで帰宅を急ぐが、男との間合いは変わらない。

 それ以上は距離を取ることが出来ないのだ。

 心臓が高鳴り、背中に冷や汗が流れる感覚に襲われる。

 息遣いも荒くなり、膝から力が抜けそうになってしまう。

 助けを求めたくても通学路には誰もおらず、助けを求めることはできない。

 一般常識からすれば警察に連絡するのが正しいが、未歩は兄・悠人にショートメールを送っていたのは、誰よりも頼りになる存在だったからだ。

 スマホを握りしめ、震える手で文字を打つ。

 未歩が送信ボタンを押したのとほぼ同時に男が行動を起こした。

 男は蛇の様に電柱の陰から出てくると、ゆっくりと距離を詰める。

(ヒィ!)

 恐怖のあまり悲鳴を上げそうになるが、ギリギリのところで我慢する。

 その行為に意味があったわけではない。

 ただ、声を上げれば男が何をするか分からない。それが怖かったのだ。

 未歩は走り出した。

 すると、男も未歩を追いかけた。

 未歩の脚力は、同世代の女子の平均よりやや上だ。

 しかし、大人の男はそれ以上の速度で追い縋る。

(イヤ!)

 と、心の中で叫ぶが現実は、未歩の最も嫌う形になってくる。

 距離が徐々に縮まり、追い付かれる。

 未歩の表情に陰がのしかかる。黒く濃密で、粘り気のある陰だ。それは絶望という名の陰であり、男の黒い欲望が色と形となっていた。

 男は、全力疾走をした訳でもないのに呼吸は荒く、表情も興奮の極致にあった。

「お兄ちゃん!」

 未歩は助けを求めて叫んだ。

 それに応える様に、道の先から一人の少年が駆けてくる。

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが駆けるような、そんな力強い走り。

 地響を鳴らし、砂塵を巻き上げる。

「みぃいいいほほおおおぉぉぉ――――!!」

 悠人は走りながら声を張り上げる。

 それは愛する妹の身を案じた兄の叫びだった。

 叫びは、まるで雷鳴のように轟く。

 男は突然出現した爆走ランナーに驚き、身を硬直させる。

「俺の妹に! 何しやがる!!」

 悠人は怒髪天を突くが如き怒りで、男に向かって突進した。

 その速度は凄まじく速く、まるで暴走トラックだ。

 悠人は地を踏む。

 アスファルトが爆ぜる様に抉れ、土煙が上がる。

 重力が彼を解き放ち、身体が宙に浮き上がる。

 そして、体が横倒しになるほどの勢いで跳躍しつつ、膝を曲げた両足を男に向けた。

 それは、さながらロケットの発射を思わせる。

 凄まじい勢いとスピードで迫り来る攻撃に、男は反応することが出来なかった。そして、避けることも不可能だった。

 悠人の両足が爆発的な勢いで開放されると、男の顔面を捉えて蹴り飛ばした。


【ドロップキック】

 両膝を折り畳むようにジャンプして鋭く突き出した両足の裏で相手の胸板を蹴り飛ばす、プロレスにおける攻撃技。

 メキシコでは、「パターダ・ボラドーラ」と呼ばれる。

 目の肥えたプロレスファンは、ドロップキックを見ただけでレスラーの力量のレベルがわかる。

 と言われるほどの基本技。

 バリエーションは豊富で、その場でジャンプして打ったり、相手に向かって走りながらジャンプして放ったり、向かってくる相手にカウンターで放ったり、コーナー最上段から繰り出すこともある。

 モーション大きい為、避けやすいく両足を使って蹴り込む故に終わった後は立て直すのに時間食うから奇襲や格下でもない限りは実戦的ではない。

 だが、両足の瞬発力を開放する勢いと体重を一点に集中して放つドロップキックの威力は大きく、クリーンヒットすれば巨漢レスラーでもふっ飛ばす。ドロップキックを食らって直立不動を行えるレスラーは居ないと言っても過言ではなく、立っていられることはできずマットに倒れ込む。

 通常のパンチやキックで、ダウンさせることは難しいが、ドロップキックはそれを当たり前に行うことを考慮した場合、どれだけの威力を秘めているか計り知れない。


 しかも悠人のドロップキックは、爆発的な脚力で打ち出されているのだ。

 威力は推して知るべしである。

 悠人の義父がプロレスラーということもあり、それに魅せられて体得した技であった。プロレスこそが最強だと。

 男は、その勢いに押され、数メートルほど吹き飛ぶとアスファルトの上を転がった。

 まるでピッチャーが投げる変化球のように回転しながら地面に激突し、のたうつ様に転がる。

 そして、男は意識を失った。

 悠人は着地すると、未歩の方に向き直る。

「お兄ちゃん!」

 未歩は涙を浮かべて悠人に駆け寄る。

 悠人の表情は怒りに染まっていたが、未歩の無事な姿を見ると安堵の表情に変わる。

「未歩!」

 悠人は未歩の体を抱きしめると、緊張の糸が切れたのか彼女は泣きじゃくった。

 こうして、不審者を撃退した悠人は妹の救出に成功したのだ。


 ◆


 朝の食卓では、心地よい朝の光が窓から差し込み、部屋全体を明るく照らしていた。

 ダイニングにあるテレビでは、レポーターが街の人にインタビューをしている姿があった。

 街では妙な噂が広がっていた。

 曰く、自動車を追いかけ追い越していくロケットマン。

 曰く、空を飛ぶフライングヒューマン。

 などという、オカルト話だ。

「朝から何てディープな話をしてるんだ」

 悠人はコーヒーを口にしながら呟く。

「そうでもないよの、お兄ちゃん。私の学校の通学路で実際に見たって子がいるの。その目撃情報から噂が広まってて、怪人が出るって言うの」

 未歩は、そう言うと不安そうな表情を浮かべる。

「怪人!? 変質者の次は怪人かよ。それは心配だな。よし、今日からしばらく俺が未歩の送迎をしよう。怪人め、俺の未歩を怖がらせて。見つけたら、ただじゃおかねぇ」

 悠人は憤る。

 その姿はまるで悪の組織に単身で挑む正義のヒーローを彷彿とさせた。

「本当。嬉しい」

 未歩は喜びながら、悠人の前にできたてのハムエッグを差し出す。彼女の料理の腕は大人顔負けだ。

 重度のシスコンの悠人は、手を合わせて妹の手料理が食べられることに感謝する。

「ありという」

 と、感謝を述べて塩コショウを振ろうとすると、未歩がそれを制した。

「待って。これはケチャップで食べて、私がかけてあげる」

 未歩はハムエッグの上にケチャップをかける。

 それを見て、悠人は少し唖然とする。

 未歩は頬を染めて兄を見る。恥じらいと期待が入り混じった表情だ。

 ハムエッグには、ケチャップでハートが描かれていた。

 それは、未歩の気持ちであった。

(妹は可愛いと思ってるけど、恋愛感情は持ってないんだよなぁ)

 と、悠人は内心では考えていたが、そんなことはおくびにも出さずに気持ちの良い返事を返した。

「いただきます」

「はい。めしあがれ」

 悠人がハムエッグを口にすると、未歩は幸せそうな笑顔を浮かべる。

 その笑顔を見ると、悠人は幸せな気分になった。

(まぁいいか)

 と彼は思うと、食事を続けた。

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