強くていいと言われたのは初めてだった

みどり

はじまりの物語

全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れをひとりでなんとかして来い。隊長から無謀な命令を受けた第三騎士団のガンツは、バッファローに戦いを挑もうとしている。


空を飛びながらバッファローの群れを観察したガンツはため息を吐いた。


「多いな……魔法で壁を作るか」


ガンツは強い。しかし、魔法は苦手だ。バッファローの群れを鎮圧するには、魔法の方が有利。それを分かっていて、ガンツの上司はガンツひとりで群れをせん滅してこいと命令した。


国で一番強い男なのだから、余裕だろうと。


同僚達は心配してくれたが、上司の命令は絶対。


「まぁ、死にはしないだろう」


大怪我くらいは覚悟せねばと一瞬だけ考えたガンツは、すぐに不穏な考えを振り払った。


結婚したばかりの妻を悲しませるわけにいかない。傷ひとつなく、帰還せねば。


覚悟を決めたガンツは、バッファローの群れを追い込む壁を作ろうと魔力を練り始めた。


魔法が苦手なガンツは、魔法の発動に時間がかかる。集中が途切れれば最初からやり直しだ。


少しずつ壁ができたところで、可憐な声が響き渡りガンツの集中は途切れた。


「ガンツ様!」


「シルビア王女……なぜここに?」


「わたくしはもう王女ではありません。ガンツ様の妻ですわ! シルビアと呼んで下さいませ」


「分かった。シルビア、ここは危険だ。すぐに帰れ」


「嫌ですわ!」


「しかし……」


「ガンツ様を陥れようとしている汚物の命令は父に解除させました! わたくしが手伝っても問題ありませんわ!」


国王の印が押されている命令書を取り出したシルビアは、既に魔法の壁を作りバッファローを追い込んでいた。


「シルビアが私の仕事を手伝う……これは本物だよな?」


「もちろんですわ! 目の前で父に書いて頂きましたもの!」


「陛下は相変わらずシルビアに甘いな」


「ふふっ、利用できるものは利用するのがわたくしのやり方ですわ。ガンツ様、これで命令違反になりません。わたくしがお手伝いしてもよろしくて?」


「そうだな。シルビアは強いものな。実は少し困っていたんだ。魔法の援護を頼んでいいか?」


「もちろんです。やっぱりガンツ様は素敵ですわ」


王女として生まれ、大事にされて生きていたシルビア。父である王は、彼女の望むままに多くのことを学ばせた。

結果、魔法と武術に適性のあったシルビアは強くなった。


騎士団長を数秒で倒し、百人以上の騎士を魔法で蹂躙するシルビアは、多くの男とお見合いをした。

しかし、シルビアが気に入る男は現れなかった。妻に強さを求める男が存在しなかったのだ。


シルビアは結婚したくないと父に訴えた。しかし、認められなかった。だからシルビアは別の我儘を言った。

自分より強い男と結婚したい。条件はそれだけだと言った。


自分より強い男なら、国に繋ぎ止める必要がある。自分が嫁ぐ価値のある男のはずだ。そう言って、父を説得した。


国で一番強いシルビアは、自分より強い男などいないと思っていた。


これで一生結婚しなくて済む。


そう思っていたシルビアの目の前に、ガンツが現れた。


コテンパンにした一年後、修行を重ねてシルビアに挑み勝利したガンツはシルビアにプロポーズした。ずっと自分の為に生きてきたシルビアは、初めてガンツの為に生きたいと思った。


後に世界一強い夫婦と称えられる二人の物語は、ここから始まった。

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強くていいと言われたのは初めてだった みどり @Midori-novel

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