web作家の戦い
時枝 小鳩(腹ペコ鳩時計)
web作家の戦いが、ここにある。
新人編集者である俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
目の前にいる、これまた新人作家の鳩ぽっぽ玉三郎先生に何とかこのシーンを書きあげて貰わなければならないのだ。
◇◇◇
ゴゴゴゴゴ……
大地を揺るがす様な地響きと共に、ダンジョンの地面がグラリと揺れる。
「くっ……、まさかダンジョンにこんな仕掛けがあったとはな」
このダンジョンのボスである邪竜との戦いで既にボロボロのパーティになす術は無い。
そんな時、異世界から召喚された聖女であるアリサが祈り始めた。
「私の最後の力で……、せめてみんなを地上へ送るわ」
「何言ってるんだ、アリサ! 君を置いてなんて行ける訳がないだろう!?」
光り輝くアリサは優しく微笑みながら言った。
「ありがとう。でもいいの。大好きな貴方を助けられるなら……私!!」
「アリサ!!」
ドドドドド……
その時だった。
どこからともなく現れた、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがアリサを跳ね飛ばしたのだ。
「アリサあぁぁぁぁー!!」
◇◇◇
「なんでだよ!?」
俺の目の前には、頭を抱えて項垂れる鳩ぽっぽ玉三郎先生。
「どっから出て来たんですか!? このバッファローは!!」
「……うぅ、こんな中途半端な笑いが欲しかった訳じゃないんたま」
「中途半端な笑いも何も、1ミリも笑えませんからね!! ……たま?」
「語尾を変えてアイデンティティを打ち出そうかと……」
「人生にまで迷走しだすのやめて!?」
鳩ぽっぽ玉三郎先生は、新人編集者である俺が初めて担当した作家だ。
元々webでギャグ小説を書いていて、その頃の癖が抜けないのか『読者を飽きさせる』という事にただならぬ恐怖心を持っているらしい。
結果、三分に一回は笑いを入れないと発狂するというとんでもない悪癖を持っている。
もう時限爆弾じゃん。
ここまではちょこちょこ小ネタを挟む事で何とか騙し騙しやっていたのだが、クライマックスのこのシーン。
さすがに小ネタで雰囲気を壊すわけにもいかず、何とかシリアス展開を続けて貰っていたのだがついに限界が来たらしい。
「大丈夫ですよ、玉三郎先生。きちんと面白い話を書けば、ギャグを入れなくても読者は読んでくれますよ?」
「ぐすっ、ほんと? PV減らない?」
「はい(そもそも紙媒体の本にPVは無いです)」
「ちょっとした出来心でギャグ減らしてシリアス展開入れたら、ブクマごそっと剥がれない?」
「大丈夫ですよ(そもそもブクマ無いんで)。……めっちゃリアルですね? 実体験ですか?」
「うう、鬱展開は鬼門だよぉ……」
web小説の世界というのは、俺が思っている以上に過酷な世界らしい。
「ほら! とにかく書き直しましょう。さすがにバッファローは無いですよ。斬新が過ぎます」
こうして俺と鳩ぽっぽ玉三郎先生の二人三脚の戦いは続いて行くのだ。
いつか、ヒット作を生み出すその日を夢見て——。
web作家の戦い 時枝 小鳩(腹ペコ鳩時計) @cuckoo-clock
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