お護り猫

にゃべ♪

守護猫こはる

 3ヶ月前、私達家族は新しい家に引っ越しをした。この家に初めて入った時、嫌な気配を感じたんだ。霊感なんてないと思っていたのに、常に誰かに見られているような気がして。でも両親は何も感じないらしい。嘘でしょ?

 私がどれだけ必死に訴えても、両親は気のせいだって言うばかり。この家の家賃は変に安くもないし、不動産屋さんも大家さんもそれ系の話を何も言わなかったからだって。じゃあ何? 私だけが狙われてるの?


 家に入っただけでも嫌な雰囲気なのに、自分の部屋に入ったらもっとそれを強く感じてしまう。誰かの視線を感じるし、背後で物音もする。机の上に置いていた物がなくなったり、消えたペンとかがいきなり床に落っていて知らずに踏んづけたりもする。絶対におかしいよ。

 静かにしていると話し声も聞こえてくるし、悪夢も頻繁に見るようになった。夢の中の私は必ず死ぬんだ。それで目が覚める。私を追い出そうとしているの? それとも――。


 そんな日々が続いて、私はもう家にいたくなくなってしまった。熱もないのに頭痛になるし、食欲もわかない。両親は病気を疑ったけど、検査の結果は何も問題なし。今度は精神的な病院に行こうなんて言ってくるから絶交状態だよ。

 お祓いとかした方がいいのかな。私じゃなくて家の方を。だって、家の外では何も変な感覚に襲われる事はないんだもん。きっとあれは地縛霊ってやつだよ、うん。


 私にお金があったらお寺とか神社とかに相談に行くんだけど、お祓いって高そうだし、私のお小遣い程度じゃ無理そう。せめて両親にもあの悪霊達の気配が感じられたらなあ。そうしたらすぐに引越してくれると思う。

 何で被害を受けてるのが私だけなんだよ。不幸過ぎる。


 で、今はリビングのソファで寝てる。家の中でも一番気配が弱いから。それでもやっぱり気分は悪くなる。吐き気もするし、悪夢も見るし。ただ、今のところ悪霊そのものは見えない。見えないからまだ我慢出来るんだと思う。気のせいかも知れないって思い込めるから。

 そうやって我慢し続けたんだけど、ついにヤバい気配の本体がやってきた。やっぱり見えないんだけどすごく怖くて、冷や汗もむっちゃ出て。


 それで私は思わす家を飛び出した。真夜中だよ。子供が出歩いちゃけない時間。でもそんな事全然気にならなかった。あのままいたら取り憑かれる。それだけは直感で分かったんだ。家にいちゃけないって。

 時間は何時かは分からない。時計なんて見る暇なかったし。だから着の身着のままだよ。それで、公園のベンチに座って暇を潰してた。朝まで家に入れない気がして、ただただ怖かった。


 そんな時だ。いつの間にか私の目の前に黒猫の子猫がやってきていた。全く気配がなくて、まるでずっとそこにいたみたい。野良猫なのか、飼い猫なのか、地域猫なのか分からない。ただ、その子猫は何も言わずに私の側にいてくれた。


「君も1人? おいで」


 子猫は私の呼びかけに応じて、ぴょんと膝の上に乗ってくれた。それがどれだけ心強かった事か。猫の喉をなでていると、心が優しさで満たされていくのが分かったよ。そのまましばらく触っていたら家に帰れるような気になって、私は猫を抱いたままあの悪夢の場所に戻ったんだ。

 玄関のドアを開けて家に入った途端、子猫は私の胸から飛び出して何処かに向かって走っていった。追いかけると、そこは私の部屋。入りたいんだと思ってドアを開けたよ。


 すると、子猫は壁をじいっとにらんで全身の毛を逆立ててる。もしかして、この子が家に居着いた悪霊を威嚇してくれている?

 子猫と悪霊とのにらめっこは30分くらい続いたのかな。その場に一緒にいたら、次第に私も悪霊の気配が薄くなっていくのが分かったんだ。きっと本当に追っ払ってくれたんだと思う。体もすごく軽くなったし。


 その夜は久しぶりに自分の部屋で眠った。勿論、猫も一緒にね。悪夢も見なかったよ。夢自体を見た記憶もなくて、久しぶりに熟睡出来た。

 翌朝、私はこの猫の飼育許可を両親に訴え、逃げ出した飼い猫じゃなければいいと言う返事をもらう。そうして、今は私の一番の友達になったんだ。


「春に出会ったから、あなたの名前はこはる!」


 こはるは、普段は普通の猫みたいに好奇心旺盛で無邪気。でも、何かしらの気配を感じたら、じいっとそっちの方を見つめている。多分、何かを追っ払って私達を守ってくれているんだと思う。有難うね、こはる。これからもよろしくね。



(おしまい)

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