no name

 ■■には三分以内にやらなければならないことがあった。それは朝に目を覚まし、シャワーを浴びてて、身支度を済ませ、上着を羽織り、玄関を出た後、それまでの自宅で過ごした記憶を忘れなければならなかった。理由は分からない。ただそうしないと良くないことが起こると思っていたのだ。

 ■■は1993年5月21日生まれである。なに不自由なくこの世に生を受け、学校に行き、社会人として仕事を全うしている。職場では生真面目で、誰の悪口も言わず、淡々と仕事をこなし、昼は同僚と昼食を食べている。休日は気ままに魚釣りへと出掛け、たまには外を散歩し、図書館にも寄ることがある。近所の人間関係も縺れることはなく、ただただ良好そのものだ。喧嘩はすれど、全てお互いの納得の末和解するほどできた人間だった。

 ■■は思った。

「なぜ平穏無事な人生の中で記憶を消さなければならないのか」

 ■■は考えた。

「きっと、それはなにか自宅に秘密が隠されているのではないか」

 ■■には朝、自宅で過ごす記憶を自分で消している理由が分からなかった。記憶を消さなければ、今までの自分の人生が足元から崩れ去っていくのではないかと言った危惧が、胸の中には漠然とあったのだ。■■はそれを知りたかった。朝の自分は一体なにをやっているのか。それだけが気がかりだった。

 明日はそれを確かめてみよう。

 ■■は運も良く休日だった。明日は一歩も家から出ないことを決め、メモ帳に書いてあった消臭剤を買っては帰宅した。

 鞄から鍵を取り出し、自宅の玄関扉の鍵穴に差し込んだ。ゆっくり回して解錠される音を聞き、家に入る。ほんのり香る腐乱臭に眉を顰めた。生ゴミでも溜めていたのだっか?ない記憶に台所を見たが綺麗なものだった。続けてリビングを見て、自室を見た。なにもなかった。出どころのわからない臭いに疑問を覚えながら風呂場を開けたその時だった。

 二つの■■がある。桃色に広がった■がビニールで覆われた床や壁に貼りついている。■つの■■には見■えがあ■た。原型は■めていないが、■■は正しく■■の■■であった。これま■の■■が蘇■。■■が■った■だ。ただ■したか■■■だ。■暈がす■。風■場にし■がみ■む。頭を■え■目■■じた。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 ■■には三分以内にやらなければならないことがあった。

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