【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す

第1話神宮寺那由多には3分間でやらなければならないことがある

神宮寺那由多には三分以内にやらなければならないことがあった。

神宮寺那由多の職業は私立探偵である。彼女には特殊能力があった。

それは愛用のスカジャンのポケットに入れられた銀の懐中時計に秘められた力である。

この懐中時計を使えば時間を巻き戻すことができる。対価は誰かの寿命である。

神宮寺那由多は銀の懐中時計で時刻を確認した。

時刻は十二時二分である。

目の前の電車は人身事故でとまっている。

その電車は十二時ちょうど発であった。

誰かが線路に飛び込んだのだ。

周囲ではあちこちで悲鳴があがっている。

神宮寺那由多は偶然にも飛び降り自殺の現場に居合わせてしまった。

はーしばらく肉料理は食べられないな。

那由多は白い額をおさえて、ため息をつく。

ちらりと空を見上げると何者かの存在を確認した。

死神がとある女性の襟首をつかみ、天界につれていこうとする。

那由多はあっと思った。

死神に連れられているのは、線路に飛び込んだ女性だ。

こんなものが見えるのは父から受け継いだこの竜のスカジャンの力だ。ちなみに懐中時計は母の形見だ。

那由多は舌打ちした。

こんなのを見せられたら、目覚めが悪いじゃないの。

このまま放置していたら、死神はその自殺した女性を冥界につれていくだろう。

私は父さんに似たのか、母さんに似たのだろうか？

那由多は首を左右にふる。

いや、どっちにも似たんだ。

お人好しは両親譲りなんだ。

手のひらにある銀の懐中時計をじっと見つめる。

カチカチと時間を刻んでいた針が逆にまわりだす。

秒針が逆時計回りに動き、時間は巻き戻る。

あの大騒ぎが嘘のように静まる。

時間が逆行したのだ。

きっかり三分前に戻った。

駅にアナウンスが流れ、電車がまもなく到着する。

ホームに暗い顔をした女性がふらふらと近づく。

目がうつろだ。

うつろな目の女性はホームぎりぎりに立つ。

彼女はちらりと電車がくる方を見る。

ちっ遠いな。

神宮寺那由多は舌打ちする。

神宮寺那由多はホームをダッシュする。

スカジャンに封印された竜の力を使い身体能力を強化する。

この力の対価は神宮寺那由多の体内にあるカロリーだ。ゆえに神宮寺那由多はとんでもない大食いであった。

駅のホームを全力疾走し、暗い顔をした女性の襟首をつかみ、後ろに引っ張る。

そのすぐ後、電車が到着した。

上空の死神が舌打ちして、去っていった。

「ふえーん、どうして死なせてくれないのよ！！」

その女性は大声で泣き出した。

「死ぬなら一人でしね！！」

神宮寺那由多はその女の頬をひっぱたいた。