ケースA 栗原未可子[4]
「でも・・・・」
未可子の話を聞いた直後、鈴子はひとつの疑問を口にした。
「何でその、マズルギさん?には人の寿命が分かるのかな」
「知らない。 聞いてないし、聞くのも違う気がするし」
妙に達観したような口調で未可子が言う。
「それはそうかもしれないけど・・・・分からないよね?普通。何歳まで生きるかなんて」
「もちろん私たちには分からないね」
「でしょ? なのにそのマズルギさんには何歳までってどうして分かる──」
「人間じゃないから」
「!?」
鈴子の言葉を
自分たちの三次元の世界の常識では有り得ないことを、いとも平然と。
「私の話、聞いてて思わなかった? 人間じゃないって」
「え、それは・・・・うん」
「でも、どうでもいい。マズルギさんがどんな存在でも。私にとっては地獄から救ってくれた救世主だから感謝しかないよ」
「寿命・・・・10年取られても?」
「うん、別に」
鈴子はオカルト話を決して嫌いな方ではない。
いやむしろYouTubeでもそれ系の動画をけっこう視聴はする方だ。
けれどそれはあくまでも現実離れの"向こう側"を対岸から軽い気持ちで眺める程度の興味であり、のめり込んで本気で信じてるわけでもない。
世の中、不思議なことがあるにはあっても自分自身での経験はなくリアリティを感じてはいないのだ。
が、今、未可子から聞かされた話は非現実過ぎてはいても、目に見える結果が出ている以上、理解を超えてはいるが信じざるを得ない。
ともかく田端七絵が未可子の前から"消えた"ことは事実なのだ。
事故に遭ったのはたまたまの偶然と片付けるにはあまりにタイミングが良すぎる。
「でも・・・・」
「ん?」
「退院して帰って来たらどうなるんだろう。 また同じようになったりしないかな」
消えたと言っても死んだわけではなく一時的なことで、怪我が治ればたぶん田端はまた学校に来るはず。
そうなればあの悪意の塊のような田端のことだ、再びイジメを始まるのでは? という懸念を鈴子は口にした。
「戻れないよ」
「え?」
戻らない、ではなく、戻れない?
似てはいてもだいぶニュアンスは違う。
「何で?」
「・・・・」
未可子は口を閉ざした。
見つめた横顔も妙に冷たく見える。
静かな拒絶を感じ、鈴子はそれ以上の追及は出来なかった。
「とにかく私はもう大丈夫だから。聞いてくれてありがとう」
「う、うん・・・・」
「で、良かったら今度どっか遊びに行かない?」
「え? あ、うん」
「テーマパークとか、良くない?」
「うん、そうだね」
「楽しみ!」
一転して明るいトーンで喋る未可子のその切り替わりに戸惑いながら、鈴子は雰囲気に呑まれるように頷いた。
けれどその心の中には決して小さくはない恐れと疑念が渦を巻き始めていた。
(マズルギさん・・・・人間じゃない・・・・って何?!)
マズルギさん 真観谷百乱 @mamiyan
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