ケースA 栗原未可子[3]
(!?)
目の前に女が立っている。
真っ赤な
腰まである長い髪。
夢?
それとも──
『死にたい?』
『!?』
脳内に直接、ギシギシ侵入してくるような"声"がした。
誰?
何故?
それを知っている?
未可子は身動きも出来ず無言のまま女を凝視した。
『あなた・・・・誰?』
『マズルギ』
『マズ、ルギ?』
奇妙な名を名乗る女。
『あの・・・・』
『田端』
『えっ?』
『七絵』
『どう・・・・して』
唐突に、憎悪する名が出たことに未可子は驚愕した。
さらに──
『消えたら、死なない?』
『え・・・・』
『消してほしい?』
『消す?』
『そう』
『田端・・・・を?』
『望むなら、目の前から』
『・・・・』
目の前から、消す?
あの悪魔のような田端を?
消えてくれたら居なくなってくれたらどんなにか──日々そう思っていた。
苛烈ないじめを受けながら(死ねばいいのに)と念じてもいた。
けれど常に現実は残酷。
未可子の状況は一向に変わらなかった。
だから自らこの世を去る決心をした。
が、今、目の前の女が救いをチラつかせ未可子の気持ちを揺らしている。
『でも・・・・』
『何?』
『消す、って・・・・どうやって』
『それはあなたが気にすることじゃない。ただ、報酬は頂く』
『報酬?』
『そう』
『それって──』
『寿命』
『えっ?!』
『あなたの場合はそうね・・・・10年』
『じ、じゅう?』
『大丈夫。あなたの寿命は78年。10年引いても68年ある』
『10年・・・・引く?』
『そう、10年』
一体この状況は何なんだろう。
理解のキャパを超えすぎている。
未可子は激しく動揺した。
それを見透かしたように女が、ニヤリ、とした。
『選択は自由』
『?!』
次の瞬間、女の右手がいきなり伸び、未可子の額に冷たい指が触れた。
途端、意識がプツリと切れた。
────────────────────
・・・・・・・・・・・・・・・・!
「あれ・・・・え・・・・」
自室の机に突っ伏した姿勢で目覚めた未可子はぼんやりする意識で目を泳がせた。
「部屋?」
謎の女と生々しく対峙していた状況が脳内にクッキリと残っており、急な場面展開に気持ちが追いつかない。
夢? だったのだろうか?
すると、ふいに照明がチカチカと点滅した。
そしてそれを合図にするかのように、目の前にひらひらと何かが落ちてきた。
「え、何・・・・これ」
それは真っ赤な、スマホと同じくらいの大きさの一枚の紙。
(・・・・)
まだ明瞭ではない意識で恐る恐るそれを手にする。
そこに書かれていたのは三行の黒い文字。
寿命取引しますか?
拒否なら首を横に。
承諾なら首を横に。
「取引・・・・」
その言葉が口をついて出た瞬間、脳裏に田端七絵の罵倒が蘇った。
「何でそんな顔面で生きれてんの? よく外を歩けるよね! ぶっさいくのくせに」
完全に見下しきった憎々しい表情、歪んだ口元。
カーッと頭に血が逆流するのを感じ未可子は両手の
そして──
「取引するっ!!」
思わず声を張り上げ、大きく首を縦に振った。
すると紙はふわりと宙に舞い上がり、ふっと消えた。
次の瞬間、空間に"声"が響く。
『 取 引 成 立 』
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