ケースA 栗原未可子[2] 

 互いの母親がパートタイム勤務をしているショッピングモールの屋上駐車場の隅、自動販売機にもたれながら未可子が言った。


「いきなりは信じられないとは思うけど、これから話すことは本当に本当のことだから。作り話じゃないから」

「・・・・うん」

「本気で信じる気持ちで真面目に聞くって約束してくれる?」

「うん・・・・約束する」

「本当?」

「うん」

「もし笑ったり馬鹿にしたりしたら──」

「え? したら?」

「マズルギさんが怒る」

「怒る?」

「そう」

「怒る・・・・ってどうな──」

「とにかく、真面目に聞いて。それだけは守って」

「・・・・わかった」


 未可子の謎の圧に押され、鈴子は信じる前提で耳を傾けることにした。


────────────────────


「え、じゃ、やっぱり田端の事故って・・・・」

「そう、マズルギさん」


 話をほぼ聞き終わったあと、鈴子は妙に淡々とした口調と表情の未可子の横顔を凝視した。


「怖く・・・・なかったの?」

「ぜんぜん。あんな地獄から解放される嬉しさだけ」

「でも、取られた・・・・んだよね?」

「うん。けどまだ16だしぜんぜん気にしてない。平気」

「平気って・・・・」

「いいんだってば。助けてくれたんだから問題ないの。だってマズルギさんがいなかったら私、絶対に自殺してたもん」

「・・・・」


────────────────────


 半月前。

 未可子は自らを葬り去ろうとしていた。

 限界はとうに過ぎていた。

 だから、悪の権化の田端七絵への恨み辛みを書きなぐった遺書をあちこちにバラ蒔いたりSNSにアップしたあと学校の中で実行しようと決めた。


 そんな考えに支配をされていたとある夜中、未可子はふと検索をしてみた。

 ただ何となく。


 キーワードは[自殺]。


 スマホ画面をいきなり占拠する『ひとりで悩まずに──』の電話番号付き広告を鼻で笑いスクロールすると次々に現れる"それ"に関するページタイトル。


 と、ぼんやり流し見をしていたその目が一点に留まった。


 マ■■■さん


(マ・・・・さん?)


 妙な引力を感じ、指が自然とタイトルをクリックした。

 すると──


「?!」


 一面が赤黒い色の画像が現れ、不協和音のような音が微かに流れ始めた。

 メロディとは言えないような不安定で奇妙な音。


「何、これ」


 画面が切り替わらないのかとタップをしてみるが変化はない。

 気味が悪くなり閉じようとしたその時、画面中央に小さな黒い点が出現した。

 思わず凝視をする。

 それは徐々に大きくなり、やがて画面ほぼいっぱいに広がった瞬間、未可子はキャッと小さく悲鳴を上げた。


     【 赤 い 眼 】


 妙に生々しくギラつく片目のそれ、がふいに現れた。

 そして瞬時に視線を取られると同時に不協和音の音が脳内に侵食する感覚に襲われ、未可子の意識は朦朧とし始めた。

 やがて"落ちる"寸前、耳元で声がした。

 明確に、ハッキリと。


『寿命をくれたら助けてあげる』

『あなたは10年』


 きしんだ機械音のような女の声、だった。


 



 






 

 

 


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