第46話 幸せの道はこれからも


 ドタドタと家の中を一人の美少女がパンを口に加えたまま、走っていた。


「遅刻、遅刻ー!」


 フサフサの耳を揺らしながら、清純学園の制服着る美少女――、八代 ミミは玄関先で急いで靴を履く。


「ミミ! お弁当忘れているよ!」

「ありがとう、お母さん!」


 ミミはエプロンを身につけ、否応にも大人びた女性の色気が滲み出ている遥から弁当を貰う。


「大丈夫、忘れ物ない?」

「うん、平気! ありがと」


 ミミはパンを口の中に押し込み、スッと立ち上がる。

 その姿は幼かった頃とは違う。

 体つきも背丈も立派な女性へと成長を遂げていた。


「ミミおねぇちゃん。おうちかえってきたらあそぼ?」


 幼稚園の制服を着た少女が両手を上げ、抱っこしてぇと甘えた顔を見せる。


「うん、愛花。帰ってきたら、お姉ちゃんといっぱい遊ぼうね!」


 ミミは愛花を抱っこしておでこにキスをすると、愛花はパァアアアと顔が明るくなる。

 ミミが愛花に頬をすり付けると、愛花もそれに応えるようにミミの真似をした。

 

「ほら、愛花も靴履かないとね?」

「うん!」

 

 遥が愛花に促し、ミミは愛花を降ろす。

 愛花は靴を履き終えると、パッと立ち上がる。


「パパはまだぁ?」


 愛花がリビングの方を背伸びをして見つめる。

 すると――。


「ごめん、みんな。遅れちゃって」

「遅いよ、おとーさん!」

「悪い!」


 スーツ姿の景太は焦った様子で玄関先までやって来る。


「ほら、あなた。ネクタイ曲がってる」

「あぁ、ありがとう、遥。体の方は大丈夫?」

「うん、二人目だし、今は安定期に入っているから大丈夫」


 すると、遥は少し大きくなっている自分のお腹をさすった。


「何かあったら、言ってね?  すぐ駆けつけるから」

「ふふっ。ありがと」

「よし、行こうか!」


 景太は革靴を履いて、愛花を抱っこする。


「ちょっと待って」


 遥に止められ、振り返るとキスをされた。


「行ってらっしゃい、あなた」

「ママ、わたしもー」

「はい、愛花もね。ちゅ」

「えへへ」

「え、私も欲しいー!」

「ミミもおいで?」

「わーい!」


 八代家は全くを持って朝からお熱かった。


「じゃあ、行ってきます」


 玄関を出ると、ミミが「行ってくるねー!」と手を振って走り出し、景太は愛花を助手席に乗せてシートベルトつけてから車のエンジンをかけ、車を走らせる。


「ねーねー」


 愛花が足をバタバタさせながら、景太の方を見る。


「なんだい?」


「なんでミミおねえちゃんには、あたまにおみみがあるの? わたしにはないのに。ミミおねえちゃんはどこからきたの? いせかいじんなの?」


 小さな子供が思う純粋な疑問だった。


「あぁ、それは……。異世界リントブルムとこの世界の次元が繋がって交流し始める前の話に遡るのだけどね?」


「うん」


「ママが異世界から帰ってきて、パパがママを――」


 景太は運良く渋滞にはまり、幼稚園に着く頃に大体を話し終える。


「ふえー、ふぁんたじー!」


「どこで覚えたんだ、そんな言葉」


「このまえ、まほーしょうじょのアニメでやってた! ふぁんたじー・まぎすてる! わたし、しょーらいはまほーしょうじょになりたい!」

 

 本当に血は争えないなと思う。


「ミミおねえちゃんすごいね! かっこいい! きれいだし! かわいい! パパも、ママも、すごい! あいかね。そんなみんなのことが、だいだいだーいすき!」


 大きく手を広げて、眼を輝かせる。

 景太は愛花の頭をよしよしと撫でてあげた。

 純粋で、真っすぐで嘘偽りのない愚直な想い。

 その想いが自分と遥を繋げてくれたと思うから。


「その誰かを大切に想う、その気持ちを忘れないようにな」


 愛花はポカンと首を傾げたが――、


「うん!」


 と満面の笑みで頷いた。

 

 景太は愛花を幼稚園に送った後、少しばかり空を見上げ、自身の過去に起きた出来事をかえりみて、懐かしむ。


 自分の前に広がる世界はもう暗くない。

 とても澄み切っていて、気持ちの良い青空が広がっていた。


「やべ、俺が遅刻する!」


 景太は車に乗り込み、急いで職場に向かうのだった(fin)


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学園カーストトップの異世界帰りの聖女様を助けて死にかけたら、強制的に恋人になる魔法のキスで蘇生されました~皆に隠れて毎日イチャラブしながら迫る危機は捻じ伏せます~ 千木らくた @chigirakuta

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