第45話 完全勝利と幸せなキス

 幸せなひと時を終え、ニトが修復してくれた制服を着て、皆を呼ぶ。

 すると、ニトが瓶に溜まった並々ならぬ魔力を粘土のようにをこね始めた。

 さらに、この地球を包んでしまいそうな、極大の魔法陣を展開し、宙へ魔力を解き放つ。

 その魔力が虹の雨となって降り注ぎ、魔王城に浸食されていた体育館は元の姿を取り戻していき、学園全体を覆っていた結界すらも取り払っていく。


 全てが元通りになっていく中――。


「おい、お前」


 ニトが俺に向かって、杖を向ける。


「助かった。ありがとう。お前のおかげで世界は救われた。だが――。いや――」


 ニトは何かを言いかけたが、首を振る。


「うぅ……、うぅ、ハルカを……ハルカを……、幸せにしろよ!」


 涙ながらに俺に言った。


「まぁ、良い男じゃねーか。遥のことを大切にしているみたいだし、私は好きだぜ? 夜も強いし、漢気を感じるぜぇ!」


 ヴィクターががっしりと俺の肩に手を回し、カカカッと笑う。


「あ、ありがとうございます」


 すると、体育館に亀甲縛りになったミーアを知世先輩の式神たちが担いで連れてきた。

 俺は――、聖牢を発動し、身躾さんに憑依していたミーアを引き剥がす。


「ふふふ、私を出し抜いたせんぱいはやっぱり流石です。私が惚れるだけの男でした」


「ありがと、お褒めの言葉として頂いておくよ」


「でも、残念。牢獄に押し込められて、せんぱいの顔をもう見れなくなるなんて……、敗者は辛いわ」


 聖牢がミーアの魂を包んでいく。

 ふと、隣にいた遥に眼をやる。


「負けたわ。あなたの完全勝利よ」

「えぇ、あなたに景太を幸せにできませんから当然です」

「……くそ、本当にむかつく。本当に。でも、敗者は去るしかないのね。あぁ、お尻が痛くてしょうがないわぁ……」


 そう悔しそうに天を見上げながら告げると、バシュンとミーアは銀色のパチンコ玉になった。

 エルマ様が魔王とミーアが入ったパチンコ玉を手に持つ。

 そして、その魔力を使い、身躾さんをミーアに憑依される前の体に戻し、佐渡さんの傷を癒してあげた。


「さぁ、二人とも……、そろそろお時間ね」

「かぁぁぁ、またお別れかよ。こっちの世界と私たちの世界が行き来できたら良いんだけどなぁ!」

「いずれ私が成し遂げるさ。次元を繋ぎ、二つの世界を行き来することができるそんな魔法の仕組みを作り上げる。だから――」


 ニトは涙を見せず微笑んだ。


「ハルカ、また会おう」

「うん」

「そして、お前たちも――」


 そう言うと、手を振るエルマ様、ニト、ヴィクターの体が光となって消えていく。

 消えると、体育館に俺たち五人が立っていた。


「また、会えると良いね」


 そして、パンとイベントのラスト五分のピストルの合図が鳴る。

 体育館を出て、屋上へ向かうと、ローション塗れの男女とカーペットにへばりついて吠える男子などなど、阿鼻叫喚の地獄絵図が完成していた。

 でも、どこか、皆楽しそうだった。

 まぁ、これも悪くはないのかな……あははは。


「そうだ、ハルカ」

「はい」


 俺はハルカへ俺の第二ボタンを外して渡す。


「俺はずっと遥を好きでいる。これからもずっと」

「……はい」


 遥も自分の第二ボタンを外して、俺に渡した。


「私も誰よりもあなたを愛します。景太は……私の一番大切な人です。本当に大好きです」


 ひゅー、ひゅー。

 あらあら。

 みゃー‼

 そんな三者三様の声が聞こえ――――、恋愛バトルロイヤルは終了した。


   ☆


 後夜祭では、俺と遥、他数組の男女が正式なカップルと認められ、皆から祝福されていた。

 並木先輩のカップルも何とか復縁まで漕ぎ着けたらしく、キャンプファイヤーでフォークダンスを踊っていた。


 まぁ、幸せそうで何よりだ。

 

 身躾さんには小糸さんが付いていた。

 二人には憑依されていた時の記憶がなく、なぜ自分がこうなったのか分かっていなかった。

 今は涙ながらに小糸さんが身躾さんを抱き締めている。

 きっと、小糸さんがいれば、身躾さんは大丈夫だろう。


 佐渡さんは、風紀委員達と一緒にイベントの後片付けに終われていた。

  

 ふと――、思った。

 俺のシナリオは中三のキャンプファイヤーから始まったのか。

 ド底辺キモオタだった俺は七瀬さんに罵倒され、ゲロ吐いて、ぶっ殺されそうになって――、自分が変わらなければと思い、遥と出会った。

 それから色々あったけど――。


「景太、私と踊りませんか?」


 遥が目の前にやって来ていて、俺に手を差し出す。

 俺は遥の手を取って、フォークダンスの輪に入った。


「景太、これからいっぱい楽しい事しましょうね?」

「もちろん」

「景太、これからもずっと大好きです」

「俺も」

「景太、私はこれからもっと景太のことが欲しくなると思います」

「俺も」


 そう言うと、遥は甘い顔を見せて俺の方を見る。

 そして、握っていた手に力が入り――。


「景太、一緒に幸せになりましょうね?」


 そう言うと――、皆の前でキスをしてしまった。

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