【KAC20241】進路はノリと勢いで決めてはいけません。
姫川翡翠
東藤と村瀬と進路相談
「村瀬には三分以内にやらなければならないことがあった」
「いや、別にないけど」
「……」
「なんやねん」
「お弁当美味しい?」
「いつも通り美味しいけど」
「お母さんにちゃんと感謝しぃや?」
「それは、まあそやな。忘れてたかも。今日帰ったらちゃんと言うわ」
「早食いは身体に悪いからな?」
「お前は僕のオカンか。……え、もしかしてさっきの『お母さん』ってまさかの一人称? さすがにちゃうよな」
「ほら、感謝して?」
「やっぱりそうやったんか? 東藤から生まれてくんのなんか嫌なんやけど」
「したらあかんで?」
「早食い? してないけど、なんなん?」
「もう高校生も3年目になってしまったなぁ」
「どしたん? 東藤、今日めっちゃ会話下手ちゃう?」
「村瀬はこないだの模試でどこの大学書いた?」
「東大」
「3年にもなって未だにそんなアホなことしてんのかよ」
「つい癖で(テレテレ)」
「(テレテレ)ちゃうわきっしょ」
「お前はどこやねん」
「そりゃオックスフォードよ(キリッ)」
「嘘つけ。(キリッ)ちゃうぞ」
「確かに3年の春も終わるのに、未だに明確に行きたい大学決まってないのはちょっとあれかもな」
「僕らくらいちゃうか?」
「意識低い系」
「嫌なカテゴリーやな」
「晩御飯は毎日市販の総菜パン」
「お風呂はシャワーだけで済ますタイプ」
「ちょっと昔の自己啓発本を古本屋(110円)で買う」
「多少の雨なら傘をささない」
「香水の代わりにファブリーズ(リセッシュでも可)持ち歩いてる」
「ハンカチの代わりにフェイスタオルを持ち歩いてる」
「固形石鹸で全身(髪まで)洗っている」
「……クソ、僕の負けや」
「まあでも意識高い系よりましなんちゃう?」
「それはそれで嫌なカテゴリーよな。確かにどちらかと言えば前者の方が言われて傷つかない気がする。まあとにかく、進路はそうやな……東藤が行く大学に僕も行こかな。自分の将来とか基本的にどうでもいいし」
「意識低い系の最たるものやんけ」
「友達と同じ進路を選ぶやつ」
「恋人とかならまだしも、友達やからな。なかなか救いようがない」
「どうでもいいというか、どうにでもなるって感じかな。だって東藤やしそこそこいいとこ目指すやろ?」
「その予定やけど」
「でも僕下宿はしたくないから、それだけ気を付けて大学選んでな」
「ええ? まあ俺も実家から通えるとこで考えてるから別にええけど。村瀬学部は?」
「僕は経済」
「えー。お前経済かよ。俺は文学部がいいんよな」
「なんで?」
「かっこいいから」
「いうほどか?」
「じゃあなんで経済やねん」
「無難に潰しが効くからかなぁ」
「おもんな」
「お前も大しておもろくないで」
「マジか……」
「そんなしょうもないことでショック受けんといてくれ」
「逆にどの学部やったらおもろいんかな?」
「知らんわ。もう大喜利はええからな?」
「ふむ。確かにそろそろいい時間ですからね」
「何が?」
「それじゃあもう少しだけ待ってみましょう」
「は?」
「……」
「……何?」
「……」
「ちょっと! 村瀬君いる?」
「え、先生? はい。いますがなんでしょうか」
「『なんでしょうか』じゃないです! 12時50分から進路相談の予定だったでしょう! 次の子もいるんだから、さっさと来て!」
「あ、ああ! すみません、完全に失念してました。すぐ行きますんで弁当だけしまわせてください」
「早くしてね!」
「はい。すみません。うーわ、そっか。僕進路相談あったんや。進路相談表ちゃんと見てなかった」
「だから言ったやん」
「なにが?」
「『村瀬には三分以内にやらなければならないことがあった』」
「やかましいわ。覚えてたらならちゃんと教えてくれや」
「しかし、三分以内に思い出すことはできなかったのであった。ゲームオーバー」
「黙れ」
「Continue?」
「マジで覚えとけよお前」
「ええからはよ行け」
【KAC20241】進路はノリと勢いで決めてはいけません。 姫川翡翠 @wataru-0919
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