Paradox~彼女を救え~

大月クマ

過去と記憶の狭間

 少年には3分以内にやらなければならないことがあった。


『まもなく、3番線に電車がまいります。黄色い点字ブロックの内側までお下がりください』


 夕方のホームに自動アナウンスが流れる。

 日の沈む僅かな瞬間にだけ日の光は、明るく照らし出したものの輪郭を緑に光らせた。


――はどこだ!


 少年はホームに駆け上がれなかった。

 何せ、駅手前の遮断機が下りて警告音を鳴らしている。それに捕まってしまった。

 遮断機、線路、その向こうの小さな駅舎……右手に無人駅の小さなホームが伸びている。


 ――遮断機なんて、聞いていない!?


 駅に停車する列車のために遮断機が下りている。万が一、列車が停車に失敗した場合、踏切に人がいては困る。安全のために、踏切内を進入禁止にしている……その昔、煩わしく思った学生が、遮断機をくぐり駅に向かった。そして、そういうときに限って、事故が起こった――

 まあ、そんな話はこの話に関係がない。

 電車が来て、遮断機が上がるまで……もどかしい時間と共に、少年のタイムリミットが刻々と迫っているのだ。


 ――早くしなければ、すでに2分は切った!


 列車が右手からホームに入ってきた。

 カラカラとやる気のない警告音が止まると、遮断機が上がり始める。


「もうッ!」


 まだ頭まで上がる前に遮断機の竿をくぐり抜け、駅舎に入り、ホームへの階段を――


『ピンコン! 残高不足です!』


 自動改札機で捕まった。ICカードに初乗り運賃も入っていないようだ。


「なんでこんなときに、はチャージしていないんだ!」


 警告音と後ろに固まった他の乗客に詫びながら、隣のICチャージに向かった。


 ――お金? お金は……


 自分の制服のポケットを漁った……だがない。背負っているリックを漁ろうとしたら――


『――行きが発車します。駆け込み乗車はご遠慮ください』


 再び、自動アナウンスが流れはじめた。

 そして、列車のドアが閉まる空気音。それからゆっくりと列車が加速し始めるモーター音。


 ――しまった!? タイムリミットだ!!


 少年は駅舎を出て、走り去る列車を目で追うしかなかった。だが、成果はあった。

 1番後ろの車両。その1番後ろの扉に彼女はいた。

 少年の目に、短い髪のが列車の窓越しに見える。


 ――曖昧な記憶でここまで来たけど……体験したから、次は上手くいく。


 列車を待っていたときは、1番ホームの奥というのが、問題であるが――

 やるべき事を記憶すると、少年はその場で倒れてしまった。しかし、彼の視界はハッキリとしており、少年の身体を見下ろしながら、空高く飛んで行った。


 ※※※


 とある未来のお話――


 ある発明家がタイムマシーンと呼べるものを作った。だが、それは一時的に過去の人間に現代の人間の意識を上書きすると、いうものだ。自分では過去に行けない。しかも、近親者が僅かな時間の間だけ、過去を体験できる。

 本当に体験するものは、過去の時間なのか、媒体にしている人の記憶なのか、ハッキリしないままガラクタとなっていた。

 しかし、少年が父親の作ったに触れ、過去を体験すると、あることが分かった。


 少年の母親が事を――


 学生時代に列車事故にあうことになる母親……彼女を救うために、少年は過去に遡るのであった。


 何度も――



〈了〉

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Paradox~彼女を救え~ 大月クマ @smurakam1978

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