『上司に許されるため』に昼下がりの三分以内にやらなければならないことがあった
ののあ@各書店で書籍発売中
許しを請う私
『上司に許されるため』には三分以内にやらなければならないことがあった。
デスクが並ぶ仕事場。
その一番奥でスタンバっている美人部長の下へ、急いで向かう昼下がり。
「部長! お話があります!!」
「はいは~い、何かな~?」
深呼吸する間も惜しんで、芋っぽい私は速攻でやるべきことを始めました。
それもこれも、《え、怖いぐらいに優しい上司》堂々の1位たる部長の独自ルールがあるからです。
その名も『お昼の三分以内なら、どんな話も許される」ルール!
制限時間は三分。過ぎたら命は無い――と思うぐらいにはヒドイ事になるでしょう。でも、その三分だけはどんな大変な事態も寛大な心で許される、罪人にとっては素晴らしき蜘蛛の糸なの! 逆に三分過ぎたら許されないし、普段よりもめっちゃ怒られるらしいので失敗=即・死☆
「実は、ちょっとした手違いで明日の大事な打ち合わせに必要な資料をロストしてしまいまして!」
「あんですってぇ~? 一体どんな手違いがあったのかしら」
「もう使わなくなった資料と一緒に、ゴミ箱にドリブルシュートしました!」
物理的に! ポーーイっと!
「あらあら、サッカーでもやってたの?」
「どっちかってゆーとバスケットボールであります」
「そっかー、さぞ見事なダンクだったのねー」
のんびりとした口調で腕を組み目を伏せる部長。
一方の私は、気が気でない。だって、さっきから通常時であれば雷がなんべん落ちても足りないレベルでぶっちゃけトークをしているから。背中は冷や汗でダラダラです。
「でも回収すれば大丈夫でしょー」
「いえ、実はタイミング良く清掃業者の人が持っていってくれまして。今頃は丁寧に抹消されてるかと」
部長の机の上からPiPiPiPiと電子音が鳴る。
「全部?」
「全部です」
「何日もかけて作った資料が?」
「です! ほんっとーーーーにごめんなさい!!」
全身全霊で頭を下げる私。
しかし、申し訳なく思ってる片隅で「よし!」と達成感も味わっていた。
これにて大失態を謝り倒して許してもらうミッションは終わった。
状況終了、お疲れ様でした! 部長にはごめんだけど、責任という重圧からの解放は素晴らしい!! 部下として終わってる自覚はあるけど、今はただ嬉しい!!
部長の表情をちらりと確認する。
すっごい笑顔だった。部長、そのスマイル素敵ですとヨイショしてあげたい。
――そんなことを考えたから、気づくのが遅れたのかもしれない。
笑ってるのは部長だけで、同僚達は怯えた表情をしている事に。もう間延びした声を出す、部長ではなくなってる事に。
「ところで、あなた。なんでこの時間に謝りに来たの?」
「はっ、『お昼の三分以内ならどんな話も許される』からです」
「うんうん。確かにそのルールはあるわね」
「ですよね!」
「じゃあ、なんで三分以内なのかは知ってる?」
「?」
小首を傾げる私。
そんな愚か者に、部長はとても優しく、けれどめっちゃ怖い声色で教えてくれる。
「それはね。あたしがお昼に食べるカップ麺が出来上がるのにかかる時間が三分で、その待ち遠しい時間だけは仏のような気持ちでいようと決めたからよ」
言われて気づく事実。
部長の手元にあったカップ麺はイイ感じに出来上がっていた。
つまり、三分を過ぎてるわけで……。
「えッ、いや!? わ、私ちゃんと三分以内に話を終えましたよね!??」
「残念だわ。三分はあなたが話し始めてからスタートじゃなかったのよ。アラーム、聞こえたわよね」
「えええええ!?!?」
「仏の顔も三分までってね。さて…………覚悟はいいかしら」
私の絶叫が建物中に響き渡る。
仏の三分を突破した私に落ちた雷は三倍以上だった。
『上司に許されるため』に昼下がりの三分以内にやらなければならないことがあった ののあ@各書店で書籍発売中 @noanoa777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『上司に許されるため』に昼下がりの三分以内にやらなければならないことがあったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます