どうする?
シンカー・ワン
決断
いや、特に制限時間を設けられている訳ではなかったが、雰囲気的にできるだけ短い時間での判断を求められていると感じたのだ。
迷宮保有都市バロゥの
いつもの宿のいつもの部屋で、
「新しい人を入れたいと思う」
これが女魔法使いからの提案。理由は明快で一党に不足している回復役の補充だ。
「よくなるのならウチはいいぞ」
と、シンプルな考え方をしている
多数決をとるなら今の時点で決定ではあるが、運命共同体たる一党の問題、ひとりでも反対があればご破算で構わないと女魔法使い。
ゆえに忍びに課せられた責は重い。
回復役が重要なのは忍びとて理解している。
一党を組んでからも何度かギリギリな戦いで這う這うの体になったことがあり、回復役の必要性は骨身に染みてわかっている。
現に直前の仕事でボロボロになったばかりだ。おそらくはそのことをふまえての提案だと察せられた。
にもかかわらず、忍びは熱帯妖精のように即断できない。
基本単独で行動できるよう育てられ、即断即決を是とする忍びとしては不甲斐ないがこれには訳がある。
単純に他者との深いコミュニケーションをとるのが不得手なのだ。
任務遂行のためならば、立場も心情も偽るのが『忍び』というもの。表面的な関係を取り繕うのは苦ではない。
浅く弱い関係を築くのは平気だが、深く強い関係を築くのには慣れてなく臆病なのだと言ってよかった。
冒険者となってからもその傾向は残っており、臨時で組んで仕事をしても終われば無くなる間柄と思い入れも情も抱かないようにしてきた。
意識が変わったきっかけは、女魔法使いと熱帯妖精と知り合った臨時で組んだ仕事。
思いのほか大掛かりな件となり、命の危機に陥ったりしたが、仲間との連携で切り抜けることができた。
任務のためならば平気で同僚を犠牲にする『駒』と、臨時であろうが組んだ仲間の命を軽んじない『冒険者』の違い。
この経験があってようやく忍びは『本当の冒険者』となった。
背中を仲間に任せることを覚え、自分以外を大切にするようになれたのだ。
未だ積極的にコミュニケーションをとるのは苦手ではあるが、相手に歩み寄れるようにはなれたと忍びは自負する。
思案を止めて顔をあげ、自分の答えを待つ仲間たちを見る。どんな返事が来ようと受け止めるって顔があった。
ならば何を悩む必要があろうか。
自分を信じてくれる仲間、自分が信じる仲間が望むこと、それを叶えないで何が一党だ。
忍びは答える、自分を変えてくれた仲間に。
「――自分は構わない」
答えがわかっていたように笑う熱帯妖精。提案が受け入れられたことを喜ぶ女魔法使い。
「で、ねぇさん。当てはあるのか?」
男は嫌だぞ~と付け足す熱帯妖精に、
「前々からいいなって思っていた
うなづきながら、求める条件は満たしていると答える女魔法使い。
「ふたりとも知ってる相手」
と思わせぶりに付け加える言葉に、どちらともなく顔を見合わせる忍びと熱帯妖精。
誰かな~と知った顔を思い返している熱帯妖精に対し、自分の知ってる相手? と、少ない知り合いを思い浮かべる忍び。
そんなふたりを見やって、大丈夫そうだなと胸をなでおろす
顔合わせはいつにするかなと、小さく浮かべる笑みはとても楽しげだった。
どうする? シンカー・ワン @sinker
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
シンカー無芸帖外伝 カクヨム日月抄/シンカー・ワン
★20 エッセイ・ノンフィクション 完結済 23話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます