【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿③飛び出すびっくり箱編

竹神チエ

怪盗タルタル参上!!

 大富豪、左利きのマヨネーズ氏の体内液状物質(マヨネーズ)が大量にまき散らされる事件が発生した。第一発見者のマスタード嬢の依頼を受け、現場に駆け付けた名探偵右利きのケチャップ氏とその助手バジル少年。


 執務室に付着するマヨネーズをひと嗅ぎし、「左利きのマヨネーズくんのもので間違いない」と断言したケチャップ。果たしてマヨネーズ氏の安否は……。


 ◇◇


「もっと詳しく部屋の中を捜索しても?」


 ケチャップ名探偵の要望に、ペッパー警部は快く応じる。


「もちろんですともケチャップさん。我々も一通り見たんですがね、飛び散るマヨネーズ以外に不審なものはありませんでしたよ。でも、あなたの目なら何か見つけることができるかもしれません」


「やってみましょう」

「先生ぼくも探します」


 そして。


「先生、これを見てください!」


 ケチャップ名探偵よりも先に助手のバジルが何かを見つけた。


「ふむ、箱だね」


 つるりとした赤い顎(?)を撫でるケチャップ名探偵。ペッパー警部は驚きの目でバジル少年を見やる。


「よく発見したな、緑の少年!」

「えっへん、ぼくだって伊達に名探偵の助手をしてませんからね」


 箱はマヨネーズ氏のデスクの引き出しに入っていた、とバジル。ペッパー警部たち警察が、なぜこの箱を発見できなかったのか謎である、……が、それよりも。


「この箱、先生宛なんです」

「そのようだ」


 箱にはメッセージカードが張り付けてあった。

 右利きのケチャップ名探偵へ、と記してある。


「ぼくが開けても?」

 ペッパー警部に問うケチャップ。

「あなた宛てですから」とうなずく警部。


「では」と真っ赤な顔を神妙にさせ、箱を開けるケチャップ名探偵。


「ケチャップ!!(※驚く声)」


 ひっくり返り尻餅をつく。

 箱からびょーんっと何か飛び出したのだ。


「おっとすみません、マスタード嬢」


 謝罪するケチャップ。驚いた拍子に頭の蓋が開きケチャップが絨毯に飛び散ったのだ。


「かまいませんわ、ケチャップさん。もうおじさんのマヨネーズだらけですもの」


 クス、と笑うマスタード嬢に、「いやはや」と恥じる(頬が染まるが顔面が赤いため——以下略)ケチャップ名探偵。


「びっくり箱ですね」


 バジル少年がしげしげと箱を観察した。びょーんと飛び出したバネの先についているのは、シルクハットに片眼鏡、にんまり三日月笑みの人形だ。


「こいつは……!!」


 驚愕のペッパー警部。

 その人形に見覚えがあったのだ。


 と、バジルが箱の中に注目する。


「先生、手紙が入っています」


 ——右利きのケチャップ名探偵くんへ


 左利きのマヨネーズくんは無事だ。安心したまえ。

 だが今宵の月が見える頃までに発見しないと、その安否は約束できないよ。

 君にマヨネーズくんを見つけることが出来るかな?


 犯人X改め、怪盗タルタルより


「おケチャップな真似をするね(お茶目な真似をするね)」


 言葉とはうらはらにケチャップ名探偵の表情は険しい。それもそのはず。事態は深刻なのだ。怪盗タルタル。闇夜に忍び寄り世界中のマヨネーズを盗んでいく大悪党である。しかも。


「これは大変なことですよ、ケチャップさん。すべてのマヨネーズを盗むだけでなく、タルタルソースにすり替えていくのが怪盗タルタルの手口です。マヨネーズ氏もどうなることか」


「そんな!」


 ペッパー警部の言葉に、マスタード嬢(マヨネーズ氏の姪)が「ああっ」と立ち眩みを起こす。


「マスタードちゃん!」


 駆け寄るバジル少年。


「先生、ぜったいにマヨネーズさんを見つけ出せますよね」

「もちろんだとも」


 ケチャップ名探偵の目がきらんと光る。


「怪盗タルタル、待ってなさい。君の好きなようにはさせないよ。ぼくの真っ赤なリコピンが黙ってやしないんだからね」



(ケチャップ名探偵の事件簿④に続く)




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