祭り
キロール
大陸間激走バッファローの脅威
だが、今日、この日の襲撃だけは阻止せねばならない。神聖なヨコヅナフェスティバルの開催日である今日だけは。津我海の親方であり終身名誉横綱である大横綱『
「……バッファローたちの暴走がよりによって今日であった意味を考えればわかった筈だ……奴らが関与していたことに気付けたはずだ」
津我海は苦く呟く。力士にしては引き締まった身体の関脇津我海の瞳は既に地平を覆いつくさんばかりに迫っているバッファローたちを捉えている。あれほどのバッファローが迫ればいかに堅牢を誇るドーム型都市カントリースキルホールの外壁とて破壊されつくすだろう。或いは本来のバッファローであれば破壊の限りを尽くすことなく去ったかもしれない。
だが、一際大きなバッファローの背に暗黒回しを身に着けた奴がいる時点でその望みは消えるのだ。SUMOUの暗黒面に堕ちた力士、暗黒力士が一枚噛んでいるのならばこの日に暴走が起きた事も理解できるし、破壊の限りを尽くす事すら容易に想像がつく。
津我海から都市の壁までバッファローの足ならば約三分。その間に津我海は迫るバッファローを駆逐し、暗黒力士を打ち破らねばならなかった。当初はバッファローを追い払うだけの簡単なミッションと思われていたが、今となっては何と困難なミッションである事かと嘆息を禁じ得ない。当初こそ三十名の力士がミッションに当たっていたが今では満足に動けるのは津我海ただ一人。
それでも、成さねばならぬ。紫紺の回しを一つ叩くと津我海は深く腰を落として両の手を地に付けた。これぞ師匠である北坂場に若かりし頃に授けられた
※ ※
その日、ヨコヅナフェスティバルはつつがなく終わりを迎え、参加した市民たちは祭りの儀を口々に噂しながら帰路についた。だが、ドームの外で行われていた力士とバッファローの戦いについて知る者はなく、語る者はなかった。
荒れ地に揺れる小さな草花以外には。
<了>
祭り キロール @kiloul
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