本編:後語
さて。これにて小咄はお終い。
後日談という体裁を取った分かりやすい種明かしはないし、話の中に現れた幾つかの不可解の真相が詳らかになることも無い。夫婦がその後どんな人生を歩んだかは誰も知らないし、娘の行方について誰かしらから証言が得られるなんて事もない。不可解はそのままに、不条理は不条理のまま押し黙る。
そもそも、出自の明らかな怪異等興醒めも良い所。何一つ詳らかになぞならないまま、ただ淡々と不穏当が伝播する。怪談とは本来そうしたものさ。そしてその理不尽さ故に、人は想像してしまう。
想像とは解釈。解釈とは猛毒。本来実体のない空疎な事柄に異常性を付帯させる呪詛の様なもの。暗がりの中に姿を、夜の淵に眼差しを。思い描き、空想し、怯え、慄く。
そうした意味で。この怪談は、極めて基本に従順な怪談だとは思わないかね。
澱みしずんだ泥濘の底。大凡そこに、何某かの姿が潜んでいるなんてことはないだろう。だが、絶対と言い切れる根拠があり得ぬ限り、もしやもしという心の惑いは容易く人を蝕むのだから。
さて。それを踏まえて、だ。
貴方は溝蓋の底に、何が見えるかね。
溝蓋怪談 nanana @nanahaluta
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