第15話 事変書ll
「そろそろ、昼食だな。お腹すいたぁ。」
お腹を擦りながら大広場に向かう。
長く赤いカーペットの上を歩き、曲がり角を曲がると柔らかい感触が高良を襲った。
あ、、お花の香り……♡
高良が鼻の穴を広げ、鼻の下を伸ばしていると可愛らしい声が耳に入る。
「ごめんなさい。大丈夫??」
目の前には、髪の長い綺麗な女性が立っていた。
「だ、大丈夫です。」
そう言ったのと同時にグルルルとお腹の音を鳴らす。
「ふふ、もうお昼だもの。いっぱい食べてらっしゃい。」
頭を撫でられた高良は、沸騰したやかんのように、蒸気を出し真っ赤な顔で大広場へと向かった。
酔っ払いのような足取りで行くと、大広場にはもう大蛇が着いていた。
「おい、お前まさか酒のんでねぇよな…?」
「はひ、飲んでまへぇん…」
戸惑いつつも、高良の鼻から流れ出る血を指摘する。
「鼻血…、出てんぞ。」
「こりゃ、失敬。」
駄目だ、こいつ。と思いながらもよろめく高良をサポートしながら二人は昼食を済ませたのだった。
高良がいなくなって、ニヶ月くらいが経とうとしていた。
「そろそろ、寝るか…。」
だんだん、高良のいない生活にも慣れてきたな…。でも、やっぱり夜は高良のことを思い出す。
一つしかないベットに違和感を覚えながらも横になる。
目を閉じた瞬間窓からドンドンドンという音が聞こえる。
風かと思ったが、何かおかしいと思った凪は窓の方へ向うと、窓に長方形の封筒が挟まっている。
「なんだこれ。」
封筒の中を見ると、凪宛の便箋が一枚入っていた。
凪へ
遅くなってごめん。給料ためてて。
僕、なんか裏の世界的な所に行っちゃったみたいだわ!すげーぞ、妖怪がめちゃくちゃいんの!
でな、僕いろいろあって閻魔大王の秘書になった!すげーだろ!心配はいらない!大蛇さんがいるから無敵だ!!!
僕は必ず帰ってくるから、安心しろ!!
高良より
「なんだこれ笑信じがたいけど、この汚い文字は高良しかいねぇしな…。」
凪は状況判断力が早いため、高良が消えてしまったこと、自分だけがそれを覚えているということを瞬時に考え、現状を理解した。
凪が、机の引き出しに大事に手紙をしまう。
窓の外を見て、微笑みながらベットに入る。
「ほんとに、よかった…。」
昼食を食べ終わってもなお、アホっ面の高良は閻魔のところへ明日の日程を話しに向かった。
「以上でふ…。」
「高良、なんだか様子が変だな。さては女子か?」
ニマニマしながら、頬杖をする。
閻魔は意外と、恋バナ好きのようだ。
「めたんこ、綺麗な女性がいました…。おはなの香り♡」
「気持ち悪ぃ。」
大蛇は、閻魔とは違って恋バナには興味がない。
目の前にいる、よだれだか鼻水だかよく分からないものを垂らしている少年が気持ち悪くて仕方がないのだろう。
まぁまぁ、と言いながら閻魔は高良へ質問をした。
「それって、髪が長い女子か?」
「はい!知ってるんですか!!?」
「それは、産女だな。すごく、子供好き。」
産女とは、出産でなくなった女の霊である。
妖力を他の人に受け渡すことが可能だとか。
「あー、だから頭撫でられたのか…。」
「でも、あいつは『誰でも大歓迎』だから、高良にもチャンスはあるんじゃないか?」
どうやら、獄城内恋愛はオッケーらしい。
大蛇は、高良と閻魔の会話を聞きながらも頭を抱えてため息を付く。
また、面倒なことになりそうだ…。
大蛇は、感が鋭いのだ。
閻魔街から離れた遠い西にある荒れ地。
100年前までは、妖怪たちの紛争が絶えなかったが突如現れた妖怪によって鎮められた。
その妖怪の名は…
「九尾さん、酒呑童子がやられました。」
赤暗く、三味線の鳴る音が響く部屋で男の低い声が聞こえる。
「あらあら、それは残念ね。期待していたのだけれど…。」
「はて、驚きました。捨て駒と聞いていたので、期待していたとは…。」
「昔より口を利くようになったわね、篁。」
そう、この低い声の正体は閻魔の秘書だった篁。
西の荒れ地の紛争を止め、そこらを牛耳った者の正体は、九尾だったのだ。
「なんだか、篁が来た頃のことを思い出すわ…。まさか、閻魔の秘書が「閻魔を殺したい。」なんて言ってくるものだから、驚いたわよ。」
「もういいでしょう、その話は。それより、そろそろ九尾様の襲撃の準備もしたほうが良いかと…。」
ベンベンと、三味線の音が響く。
赤い灯りが篁を照らすと、暗闇の方から伸びた九尾の手が篁の首を絞める。
鋭い爪が首に食い込み、少しの血が垂れる。
「そんな、急かすんでない。急ぐのは嫌いなのよね。分かるでしょう?あなたは、妖力が無いに等しいのだから私の言うことだけ聞いていなさい。口答えするんじゃないわよ?」
「……御意。」
次回 秘書は忙しい
閻魔街 ミニトマト @tomato1219
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