オレンジ色

米太郎

オレンジ色

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 揺れる車内。

 観覧車というものは、思ったよりも揺れるらしい。


 緊張で私の身体が震えてるだけかもしれないけど……。



 私、初めて観覧車に乗ってるんだよ……。

 それも、彼と二人きりだし……。


 それが、落ち着かない一番の原因なんだけれども、今しかチャンスが無い。



「あ、あの。あの……」


 中々言い出せない……。

 どうして、言えないんだろう……。


 あと一歩。もうちょっとなのに。

 もうちょっとだけなのに……。



 観覧車が頂上に着くまでが、チャンスなのに……。



 オレンジ色の夕焼けが、車内に差し込んできて、車内を染めている。


 車内には、ガタガタと機械音だけが響く。

 逆光で、彼の顔は見えなかった。


 彼は、今どんな顔をしているんだろう。

 今日は、私と一緒にいて、楽しかったのかな。

 無理やり連れてこられたから、今頃は不満たっぷりなのかもしれない。


 けど、どうしても、一緒に来たかったんだ……。



 揺れる車内。

 段々と、観覧車は頂上へと近付いていく。

 時間はもう少ししかない。



 一緒に遊園地に来たといっても、友達のデートに付き添いで来ただけ。

 いわゆる、ダブルデートってやつだけれども。

 私と彼は付き合っては無くて、特に仲が良い訳でもない……。



 友達の恋人の、その友達。

 ただそれだけの関係。


 会話も全然した事無いし、私が遠くから見て憧れていただけ。

 それなのに、彼はとても優しくて。

 今日一日を通じて、もっと好きになっちゃったみたいだよ……。



「今日は、楽しかったね」


 気を使って話しかけてくれたりするし。

 私も楽しかったです……。


 心の中で思うけど声が出ない……。




「観覧車って、俺初めて乗るんだ」


 話も私に合わせてくれる彼。

 私も初めて観覧車に乗ってます……。



「カップルでしか、乗らないじゃん、観覧車ってさ」


 私も同じことを思ってます……。

 そう思っている共感の気持ちを共有したいけど、緊張して全然言葉が出ない……。



「だから、乗れて良かったよ、俺には一生縁が無かったかもだし」


「……そ、そんなことないと思います!!」



 なんだか、大きな声が出てしまった。

 それだけは否定しないとと思ったから……。


 彼は、カッコイイし、絶対にモテるはずだもん……。

 私なんかじゃ釣り合わないくらい……。


「そうかな? ‌いつかまた乗れたらいいなって思うよ。観覧車から見える景色って、思ったよりも、すごく綺麗だし」


 頂上が近づいてきて、景色が開ける。

 遠くに見える富士山が、夕日で輝いて見えた。


 もう言わないと……。

 このまま終わらせたくない……。


 私は、思い切って話し始めた。



「……あ、あの。……観覧車、また私と乗ってくれませんか?」


 頂上へ着くと、夕日で全く彼の顔は見えなくなった。

 そして、ガタガタという機械音も一瞬止み、静寂が訪れた。




 返事が無いので、私は慌てて言葉を続けた。


「……あの、わたしも観覧車好きなんですけど、一緒に乗ってくれる人がい……」


「いいよ!」


 私の言葉に被さって彼が答えた。



 オレンジ色の邪魔な光は、富士山が隠してくれる。

 やっと、見えた彼の顔は、夕日が沈んだというのにオレンジ色をしていた。


「……今度は、朝から二人で遊園地に来ようか」

「……うん」



 その後、二人で無言になってしまった。

 なんで、頂上を告白場所に決めちゃったんだろうな……。






 二人きりの時間がもっと続けばいいのにな……。



 夕日も沈んだというのに、車内はオレンジ色に染まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレンジ色 米太郎 @tahoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ