【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 ……という挨拶はお決まりなので一応やっておきまして。

 ご依頼いただき、ありがとうございました。

 改めまして、吹井賢です。


 この『とても無口な私の神様』は、Skebの依頼を元に書かれた短編です。テーマは「『嘘から出た実』を異能として獲得した人物を主役に書いていただきたい」「噓を吐いても本当のことになってしまい、噓にならない人物がいたとしたら……?」でした。

 最初にお詫びしておきます。すみません。本当は『噓から出た実』をテーマに書きたかったのですが、嘘を吐いても本当になる≒言霊遣いと接続されて、こんな感じの話になってしまいました。物語の構成の関係上、能力の元になった思いや、代償もイマイチ不明確なままです。どうかご容赦ください。

 というわけで解説しておきますと、彼、主人公である『音無無音』は幼い頃、ネグレクト(育児放棄)を受けていました。両親からほとんど相手にされなかったんですね。そして同時に、彼の家庭自体も周囲から孤立しており、彼は世界で一人のような状態でした。そんな彼は寂しくて、ずっと空想の友達と遊んでいたのですが、その様子を地元にあった伝承も相俟って気味悪がり、余計に孤立し……。

 といった感じで、彼の願いは「自分の空想が本当であればいいのに(≒両親は優しくて、友達も沢山いて、寂しい思いなんてせずにいられたらいいのに)」です。代償は、「一生で喋れる言葉の数の限界が決まってしまう」。決められた回数を喋ると、彼は死にます。それが何回かは分かりません。一億回喋った後かもしれませんし、次の一言かもしれません。寂しいことを嫌った彼は、願いを叶えた代償に、最も一般的な「会話」というコミュニケーション手段を失くし、満足に喋ることもできなくなった。

 でも、彼は構わないのです。だって、もう寂しくはないのですから。

 ここから先は完全な余談。

 テーマソングは『Simple Simple Anecdote』。「僕の言葉が死んだ時」で始まり、「僕の言葉がまた生まれる」で終わる、素敵な曲です。ノリノリ!って感じではなく、誰かにそっと語り掛ける曲調に影響を受けました。

 主人公の元ネタは『葛城一言主』という神様。良い願いも悪い願いも一言ならば叶える神様で、「言離神」は、「言い放つ神」であり、「善悪という事から離れた神」であるそうです。名前、『音無無音』は偽名で、「『無音』って名前っぽいな」「『音無』って苗字と重ねると語呂も良い」「あれ、『音無無音』って回文じゃん!」という、小さなミラクルが起きました。ミラクル繋がりでいくと、『鹿王院遊』もミラクルで(『破滅の刑死者』三巻に登場済のキャラなんですけど伝わったかな?)、彼の二つ名には『鏖(みなごろし)』という漢字が入っていますが、これ、「金の鹿」って書くんですよね。偶然、『鹿王院』らしい異名になりました。

 ヒロインの少女の名前が最後まで明かされませんが、これは当初、最後に自己紹介し合って終わろうと考えていたからです。アバドンの人体実験の被験体である彼女ですが、彼女にも結構色々な設定があるので、また何処かで再登場するかもしれません。

 『破滅の刑死者』ではちょこっと触れられるだけだった秘密結社『赤羽党』についても、少しだけ掘り下げられました。『私があなたを殺したい』『僕の家の殺し屋さん』に登場した組織ですね。松尾日影も久々に書きました。彼女の人間論はちょっと拘ったところなので、良ければ見返してみてください。

 この作品は、色んな話の前日譚と言いますか、「『赤羽党』に『一言主』が合流するキッカケとなった話」です。しかし、『アバドン』『白の部隊』『赤羽党』の三つ巴の中で、少女を守る為にとりあえず『赤羽党』と協力関係を結んだに過ぎません。元ネタである『一言主大神』は、天皇(≒現人神)と対等の立場だった、という伝承もありますし、何より、円卓には敵も味方もないですから。


 この作品が、あなたの一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。

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とても無口な私の神様 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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