全てを破壊するバッファローは立派だ

@marin111230

第1話

 俺には三分以内にやらなければいけないことがあった。

 

 それは「壁」の設置だ。


 全てを破壊するバッファローの群れが現れたのは、5年前である。1年で世界の半分が破壊されて、1年後にはそのまた半分になった。そして、3年後に人類はその群れを利用し、大量のエネルギーを得るようになる。そのおかげで、世界は豊かになったが、同時に格差が広がり治安も悪くなった。まぁそれは関係ない話だ。


 俺は、全てを破壊するバッファローの群れから、エネルギーを得る為の発電所で働いている。群れが何かを破壊したときに発生する力を、あらゆる物に変換するのだ。詳しくは分からない。俺は「壁」の設置しかしていないからだ。


 「壁」と呼ばれる板を、バッファローの前に置くだけと言えば、簡単に思えるだろう。だが、実際は一番危険な仕事である。全てを破壊するバッファローが、自分の真横を通るのだ。しかも、タイミングを間違えた瞬間に死ぬときた。その危険度の高さから、常に後ろにはバックアップの人員が用意されている。つまり、俺は代替可能の道具に過ぎない。

 

 ふと思う。あのバッファローの群れの方が、俺よりも立派なのでないかと。全人類のため文句も言わず、ただ全てを破壊するために走り続ける。たった1つの信念に基づいて、走り続ける彼らを称えた奴はいるだろうか。本当は、広大な大地を駆けたかっただろう。全てを破壊して、満足げに鳴いたりしたかっただろう。それなのに、文句も言わず、反乱も起こさない。全てを破壊する力を持っているのに。


 あのバッファローよりも、俺が優れているところはあるのだろうか。全てを破壊するといったような信念もなく、他の誰にも負けないような技術や才能もない。思いつくものは、手が届かない代物ばかりで、得るのに時間や労力もかかるものだ。やはり駄目か。いや、1つだけある。


 俺の趣味は、ずばり車だ。更地になった大地で、愛車を乗り回す。といっても、制限が多く外を走れるのは、3時間ほどだが。バッファロー達が我が物顔で走っていた大地を、俺のダッジチャレンジャーSRTヘルキャットが、ニャーと叫びながら走っていく。それが堪らなく気持ちよくて、バッファロー達が浴びていた風を浴びながら、獣のような大声で歌い叫んだ。俺は自由だ。あいつらは、この瞬間も「壁」を壊している。つまり、バッファローは不自由だ。それに、優越感を覚えて笑う。


 この時間だけは、バッファローの群れも壊せない。

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