第44話
「チェルシー。いろいろと落ち着いたら、エヴァンズ王国にも行こう。母君と父君の霊廟があるから、チェルシーのこと、ちゃんと紹介したい。ついに呪いも解け、チェルシーとずっと一緒にいられることになったよって」
レインがサファイアの瞳をキラキラさせ、私を見た。
その瞳を見ると、本当にクロ!
「そうね、そうしましょう」と思わず頭を撫でたく……。
撫でているわー、私!
されるがままに、頭を撫でられ、レインはニッコリ目を細めている。
仕草の一つ一つが、やはりもふもふクロに見えてしまうから不思議!
「さっきセフィラスは、この森にいていいと言ってくれたよね。チェルシーはどうしたい? 僕は……一応、エヴァンズ王国には、僕のことが悲劇の王子として記録が残っている。だから戻れば……爵位を授けられ、貴族の一員として生きていけるかな、とは思う。あとはこのままマーネ王国のチェルシーの屋敷で、家族みんなで暮らすという手もあるよね。チェルシーだって、ご両親がそばにいてくれたら安心だろう? 僕もチェルシーの両親のことはよく分かっているしね。サール王太子は、国外追放を撤回してくれると言っていたから」
「そうよね。いろいろ選択肢はあると思う。でも私は正直、クロと……レインと一緒なら、どこでもいいのよ」
「チェルシー……」
甘々な声に変ったレインが、とろけきった顔で私を見る。
その顔で見られたら、私の顔だって溶けます!
しばしレインと見つめ合ってしまったけれど。
そうではないわ!
落ち着いて、私。
「私の両親は、この森で暮らしたいのなら、それでいいと言ってくれているのよ。そしてこの森で暮らすなら、やっぱり宝石のお店をやりたい。そうなると基本は森で暮らして、時にはバークモンド家の屋敷に滞在させてもらうの。エヴァンズ王国は、新天地として暮らすにはいいかもしれない。一度、訪問してから考えてみたいわ」
「分かったよ、チェルシー。焦る必要はないよ。もう僕達はずっと一緒なのだから」
ニコニコ笑うレインからは、幸せオーラが溢れていた。
それを感じた私も、とても幸せな気持ちに満たされる。
そこでハッと思い出した私は、ジルのことを謝罪しなきゃと思い出す。
「ねえ、レイン。あやまらなきゃいけないことがあるの」
「そうなの? 何だろう?」
「……中庭でジルからプロポーズされた時のこと」
その瞬間、レインの顔が分かりやすく悲しそうになり、「ごめんね、ごめんね、クロ」と思わず頭を撫でてしまう。そこで再び「だからクロではない!」と、その頭から手を離そうとすると。
レインが私の手を掴み、そのまま手の甲へキスをする。
「チュッ」と可愛らしい音がして、もう胸がドキドキしてしまう。
「あの時は……僕ももふもふ(クロ)の姿のままだったから、レインとしての記憶が戻っていなかった。この姿になってから、全てを思い出したんだ。だからジルにプロポーズされ、チェルシーの気持ちが揺れていると分かり、自分の体から力が抜けて行った時は……何が起きたのか、僕自身分からなかった。今思えば、それは反呪い魔法の副作用の一つだったわけだけど……」
まだ私の手を握ったまま、そのサファイアのような瞳で、私を真っすぐに見ているレイン。
大変切なそうな顔をしているが、その想いを言葉にしてくれる。
「あの時、僕はもふもふ(クロ)で、チェルシーは人間だった。そこはどうしても超えられない種族の壁があったよね。対してジルは、チェルシーと同じ人間で、彼のことを兄と慕っていただろう? 昔から知っている相手で、信頼もしていた。それにジルは悪い人ではなかったから……。僕(レイン)の記憶が、チェルシーにはなかった。だから気持ちが揺れても、仕方なかったと思う」
「記憶は……確かになかったわ。それにそうね、もふもふと私では……というのもあると思う。それでも悲しい気持ちにさせてしまって、ごめんなさい」
するとレインは明るい笑顔になる。
「チェルシー、そんな悲しい顔をしないで。もう僕は気にしていないから。それにジルのことは、過ぎたことだろう? 僕の気持ちが分かっているのだから。チェルシーは他の男性(ひと)に、二度と心が揺れることは、ないはずだ」
それは勿論と私が頷くと、レインは頬を可愛らしくぽっと赤くして、私に尋ねる。
「もふもふではなく、この姿になってから、僕は……チェルシーにしたいことがあるんだ」
「え、そうなの? 何かしら?」
さらに顔を赤くしたレインは、サファイアの瞳を潤ませて私を見る。
その瞳に、一気に心臓が高鳴った。
「チェルシーはいつも僕のことを、ぎゅっと抱きしめてくれただろう」
「! そ、そうね」
「でも、もふもふの時の僕は、チェルシーを抱きしめることができなかったから……」
それは確かにそうだ。
というか、私。
このレインのことを、もふもふ(クロ)だと思い、散々抱きしめていたわね。
心臓の高鳴りに加え、全身が熱くなる。
「あ……チェルシー、無理はしないで。そんなに赤くなって……ごめん。性急過ぎたよね」
慌てるレインは、とても可愛い!
「大丈夫。いつも私ばかりぎゅっとしていたから、今度はレインがぎゅっとして」
「チェルシー……」
レインのサファイアのような瞳が、甘くキラキラと輝いた。
~ fin. ~
断罪終了後の悪役令嬢はもふもふを愛でる~ざまぁするつもりはないのですが~ 猫好き。 @aquaAcolor
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