戦え!! セサミマン

坂本 光陽

戦え‼ セサミマン


 ヒーローになるのが、僕の夢だった。男の子なら珍しくはないだろうが、僕は三十路みそじである。社会人として一般常識を持ち合わせている。それでも、僕はヒーローになりたかった。


 いや、正直に言おう。僕は、ヒーローである。世界最強、絶対無敵のヒーロー、その名もセサミマンだ。


 え、そんなヒーローは知らない? 初めて聞いたって? それはそうだろう。セサミマンはテレビ番組に登場する、フィクションのヒーローではない。正真正銘のヒーローなのだから。


 僕は人知れず、奴らと戦っている。敵はいわゆる悪の組織である。その名もインセクター。奴らの狙いは世界征服、人類から地球の覇権を奪い取ることである。奴らの数は膨大なので、その気になれば、いつでも人類など滅亡させられるはずだ。


 奴らは数を頼んで攻撃を仕掛けてくる。一人に対して、場合によっては百体以上で襲いかかってくる。絶対的に不利だし、強大な敵にかなうはずもない。だけど、僕はあきらめない。最後の一人になっても、奴らと戦い続ける。


 奴らは狡猾こうかつでもある。セサミマンの正体が僕だと知るや、巧妙な罠を仕掛けていたのだ。どうやら、インセクターに寝返った人間を使って、僕のスーツに砂糖をふりかけていたらしい。


 まさに絶体絶命のピンチである。


 なに、いざとなれば、必殺技を使うだけのこと。必殺技さえ使えば、絶対に負けることはない。セサミマンならではの必殺技なのだ。


 僕はクルリと、アリの大群に背を向けた。前傾姿勢をとり全速力で駆け始める。つまり、一目散に逃げたのだ。


 これこそが、セサミマンの必殺技〈逃げの一手〉である。負けなければ、戦いは続く。そのために逃げるのだ。笑わば笑え。文句があるなら、いくらでも言うがいい。


 最後にもう一つ、これで、がわかっただろうか?





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