第3話 憑りついていたもの

 時間は無常に過ぎていく。正蔵がルービックキューブに取り掛かってから既に三時以上が経過していた。何かがおかしいとブツブツ呟きながら、正蔵は必死に立体パズルを解こうとしていた。


 そしてここは防衛軍指令室である。

 40インチのモニター画面には、ルービックキューブに悪戦苦闘している正蔵の背中が映し出されていた。


 それを見つめているのは防衛軍隊長のララとミサキ総司令だ。この二人は姉妹なのだが、ミサキの見た目は東洋系で黒髪、そしてかなりグラマーな体をしている。対してララは小学四年生程度の小柄な体躯だ。そして金髪碧眼である。いつもはその金髪を短めのツインテールにしているのだが、今日は地味なおかっぱ頭だ。


「姉さま。アレはどうなっているんですか? 正蔵はパズル系の玩具は得意だと聞きましたが」

「あのキューブは法術で少し細工がしてあります。キューブを次元移動させ絶対に揃わない」

「何故そんな真似を? 意地悪ですか?」

「確かに、私たちの招待をすっぽかして徹夜で麻雀をした正蔵君は折檻の対象ですが……」

「それはまあ仕方がないですね。椿さまはカンカンに怒ってる?」

「もちろんです。さてさて。昨夜、正蔵君はゼミの担当教官に呼ばれて麻雀してました。半荘一回で帰るという約束だったのに、十回もしてたんです」

「やり過ぎだな。馬鹿者が」

「そうですね。やり過ぎ。しかし、以前のような、女性を交えた脱衣麻雀ではありませんでした」

「あんな事を何回もやられては困ります」

「そうね。ララさん、そこ、正蔵君の首筋を見て」

「姉さま。アレは何ですか?」

「ハックゴースト」

「ハック……ゴースト?」


 正蔵の背中からずるりとはい出たそれは、まるで白い一枚の布だったのだが、何か人の姿を模しているようでもあった。


「麻雀に熱中している正蔵君にこっそりと憑りついた。そして、防衛軍の基地へと侵入した。そして、正蔵君が何かの兵器へ搭乗したら正蔵君から離れてその兵器へと憑りついて支配する」

「それはつまり、椿さま、絶対防衛兵器アルマ・ガルムを支配しようとしているのですか?」

「そうね。まあ、三式戦車なら簡単に乗っ取られるでしょうけど、椿さまは無理でしょ。どう見てもアレは4次元存在だし」

「椿様は確か8次元存在でしたね」

「そう」


 正蔵の背中から這い出て来た人の形を模した白い布、ハックゴーストは不意に素早く動き正蔵がいじくっていたルービックキューブに巻き付いた。そして、キューブの中へと沁み込んでいく。


「何これ? 何?」


 驚いた正蔵はキューブを机の上に放り投げた。そのキューブを掴んだのは椿だった。


「キモイ」


 椿がぼそりと呟いた瞬間に、そのキューブは炎に包まれ灰となった。


「椿さん。これは何だったんですか?」

「兵器を乗っ取る四次元存在です。総司令はハックゴーストと呼ばれてましたね」

「それが何で俺にくっついてたんですか?」

「正蔵さまが防衛軍で一番鈍感だから」

「ええっと……否定できない……」

「そして、次元移動を繰り返すルービックキューブを何かの兵器だと認識してハッキングしようとしたんでしょ。もう灰になりました」

「え? 次元移動? キューブがですか? だから揃わなかった??」

「そう。ま、今回は正蔵さまが上手く囮になってくれたので危機を回避できました」

「そうなの?」

「そう。だから、麻雀とかやめてくださいね。変なのを持って帰らないで」

「わかりました……」


 うな垂れている正蔵の頭をよしよしと撫でる椿だった。


 正蔵が三分間でルービックキューブを揃えられなかったのだが、それが上手く囮となって侵略の意図をくじいたのだ。よくわからないうちに地球は救われたのであった。


【おしまい】

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萩市立地球防衛軍☆KAC2024その①【書き出しが『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』編】 暗黒星雲 @darknebula

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