進むべき未来

 湊が転生してからひと月が経過した。

 その間にあったことと言えば、やはり大きな部分だと原作が始まり王都での異変が起こったことだ。

 王都動乱編と呼ばれる騒動は確かに起こってしまったとはいえ、フェンリルが現れるという本来あり得ないことを除けば、この世界に生きる指揮官と彼に協力する者たちによって解決へと導かれた。


「王都動乱編は無事に終了っと……めでたしめでたし」

「湊様ぁ?」

「おっとすまん、起こしちまったか?」


 のんびり日向ぼっこをしている湊の横で、ケイと他の子どもたちが昼寝をしていた。

 世間では色々と大変なことがあったわけだが、その裏で湊は順調にやりたいことを進めており、ネバレス城の周りには多くの人々が寝泊りすることの出来る家が立ち並ぶ――これがひと月という期間と、湊が手繰り寄せた縁によって齎された結果だ。


(ま、めでたしとは言ってもこれから大変なんだが……)


 いや、王都動乱編だけでも十分に大変だったはずだ。

 だがこれから先、指揮官はもっと大変な目に遭うだけでなく、止めどなく流れる血と多くの犠牲を目にすることになる。


(頑張れよ指揮官……俺は俺のやりたいことをやる)


 ひと月経ち、湊もこの世界にある程度は順応している。

 その中で何度か帝国へと向かい、辺境の村に訪れては多くの人々を救済しているわけだが……あまりにも怖いくらいに順調である。

 だが……どれだけ順応しようとも、残酷な光景を見てここに帰ってきたら吐き気を我慢することは出来ず、その度にミアの元へ向かい慰めてもらうという格好の悪いこともしているが……まあミアは喜んでいるので全然大丈夫だろう。


「ケイ、新しい子たちはどうだ?」

「え? うん! 凄く仲良く出来てるよ! ただ……ここに来る前に暴力を振るわれていた子はまだ怖がってるけど、すぐに大丈夫になると思うから安心して!」

「ははっ、そうか」


 村人たちを救済し、ここに住む人たちも増えてきたということで纏め役というのは必要になる。

 一番最初に出会った村人たちが基本的に纏め役をしているが、決して少なくはない子供たちの面倒を見ているのが何を隠そうこのケイだ。


「大変だろうけど、子供たちのリーダーとして頑張ってくれよケイ」

「うん!」

「何かあったら俺でも良いし、ランカさんや村長でも良い……それか他の人たちでもな。みんな優しくて頼りになるだろうから」

「分かった!」


 湊の言葉にケイは元気に返事をするのだった。

 それから湊はすぐに屋敷へ戻らず、保護してきた村人たちが相変わらず街作りをしている区画へと足を運ぶ。


「お、湊様!」

「よく来てくださった!」

「何か御用ですかい!?」


 訪れた湊に対し、人々はあまりにもオーバーな反応を見せる。

 というのも最初の村人たちに負けないくらいに、他の村に居た人々もあまりに悲惨な状況だったせいだ。

 食料もなく、家もボロボロで寒さや飢えを耐えることは難しく……果てには治ることがないとされていた疫病と、多くの問題が山積みだったがその全てを解決した湊に、彼らが一瞬で心を開き……湊は気が進まないが心酔の域なのも今まで通りである。


(人が増えて……100人ほどになったな)


 そう、100人にまで増えた……ただ、いくつかの村から救済をして100人だ。

 中には湊がもう少し早く来てくれればと、そう言葉を残して死んでいった人も居る……が、それでも湊は前を向いてここまで来た……そして何より後悔もない。


(この笑顔が俺を……満たしてくれるって言うとアレだけど、嬉しい気持ちにさせてくれるんだ)


 本来の主人公とは違う別の形で湊は救済をしている。

 ここまで来たら後はもう踏み止まれない……けれど、心配してくれる人たちも多いので決して抱え込んだりはしない。

 未来に絶望した人々に可能性を示し、希望を見出してもらう……それが湊の戦いだ。


「タナちゃん」

『うむ』


 屋敷に戻り、ベッドの上で丸くなっていたタナトスに声を掛ける。

 彼女は体を起こし、そのままヒラヒラと飛んで湊の肩へと乗って影を展開する。


「みんなの元気な姿を見れて俺もやる気をもらえたよ。それじゃあ行くとしようか」

『分かった』


 湊が向かう先は、もちろん法国だ。

 これからのことや、法王における大事なことをミアと話すための時間が今日は設けられている。

 影に潜んで移動した先は相変わらずの裏路地。

 記憶を持っているミアが光の届かない陰の部分にも手を差し伸べたことで、法国の治安はあまりにも良くなり……それはミアという存在の絶対性を民たちにも知らしめた。


『むっ、来たか』

「え?」


 さて、そんなこんなでやはりミアはミアだ。

 彼女はたとえ連絡を寄こさなくとも、こうして湊が法国の中に足を踏み入れたらなんであれ感知する。

 天使の力の影響もあるだろうが、それにしてはあまりにも勘が良すぎてちょっと怖くもある。


「湊さ~ん!」

「うおっ!?」


 びゅんとロケットのように飛んできた彼女も、目の前で勢いを弱くして抱き着いてくる。

 もはやレイリニアの中では見慣れた光景で、ミアのおかげもあってか湊と肩に乗る小さなタナトスは少しばかり有名になっている。

 とはいえ、タナトスが災厄を運ぶ黒龍であることは伏せられているが。


「それじゃあ行こうか!」

「あぁ……でも大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫! 法王様も待ってるからねぇ」


 法王について話をする……とは聞いていたが、実際に顔を合わせると知ったのは昨晩だ。

 いずれ殺されてしまう法王が騒ぎを聞きつけ、湊に会ってみたいと口にしたのも大きい。


(法王リージン……果たしてどんな話をすることになるのやら)


 本来であれば、一介の人間が会うことは絶対に出来ない。

 だからこそ転生した時点から遠いところに来たもんだと、湊はミアに手を引かれながら思うのだった。



 ▼▽



「無事に辿り着いたか」

「姐さん……これじゃあストーカーですぜ?」

「黙りな。これはあの嬢ちゃんからの依頼でもあるんだから」

「そりゃそうですけど……にしても、法国のトップ戦力がわざわざ声を掛けてくるとか怪しいと思わなかったんですかい?」

「……怪しいとは思ったさ。けれど、どこか懐かしい気もしてね……それが何かは分からないけど、アタシはその感覚に従うことにした」

「へぇ?」


 っと、そんな会話がされたとか。

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ダークなソシャゲ世界への転生~なお、現地に信頼度100まで上げた仲間が居る模様~ みょん @tsukasa1992

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