新ストーリー

「……おぉ」


 湊は感動していた……というか、どうしてこの短期間に……否、短期間という言葉だけでは決して説明出来ない短さだったのに、どうしてこんな立派な屋敷が完成しているのだろうか。


「湊様、どうですかな?」

「……最高だって言いたいのはもちろんだけど」

「言ったでありましょう? 若い衆たちは建築関係のスキルを持っておりこれくらいのことは造作もないと」

「……………」


 信じられないことに事の真相はこうだ。

 本来であれば湊が村に訪れた日からそう遠くない未来に、村人は全て全滅していただろう。

 そんな全滅していた彼らだが、湊に救われた結果――心の余裕と死ぬことのない安心を得たことにより眠っていたスキルが覚醒した結果、本来であればこのようなあり得ないことを可能にしたらしい。


「それでねぇ! 私が提供出来る設備とかはこの通りで……やっぱお風呂とかは必要でしょ? 後はトイレとかもね!」

「おぉ……確かにこれを提供してもらえれば出来ますな!」

「でもまずは湊様の屋敷に設置だ!」

「いやぁ腕が鳴るぜぇ!」

「テンションアゲアゲで行こうぜみんな!」

『おおおおおおおおおおっ!!』


 とまあこのように、暇さえあれば村人たちが集まる広場ではミアを中心に若者たちの雄叫びが上がっている。


「ほっほっほ」

「村長?」

「いやはや、あんな風に自由で楽しそうにしている皆を見れるのが幸せだなと思ったのです。改めてありがとうございます湊様」

「……こちらこそありがとう」

「いえいえ、これでいつ天から迎えが来ても満足出来ますよ」

「縁起でもないことを言わないで!?」

「ほっほっほ~!」


 この村長はこれだからと湊はため息を吐く。

 これはランカから聞いたことだが、何でも最近はいつ迎えが来てもとか思い残すことはないとか、そういう言葉が増えたとのことで死ぬ死ぬ詐欺みたいな感じらしい。


(まあでも、それだけ今に安心してくれているってことだよな)


 湊が思ったように、それだけは確かだろう。


『主よ、これで夜風などは防げるな?』

「まあな。けどタナちゃんの傍に居れば風も防げたし……正直あんま変わらない気もしてるけどな」

『くくっ、そう言うでない。これは彼らの感謝の形であり、これから主が居を構える場所なのだから』

「……だな」


 しかし……こうして見てみると本当に大豪邸だ。

 前世でもこんな建物はテレビくらいでしか見たことがないほど……どころかプロ野球選手なんかの大金持ちが住んでそうな家である。


「……こいつはすげえや」


 とはいえまだまだ内部の設備が整っているわけではなく……と言ってもおそらく明日くらいにはミアを通じて揃いそうなのも逆に恐ろしい話ではある。

 湊はタナトスを肩に乗せながら、ランカを含めこれからのことを話しているみんなの元へ向かう。


「あ、湊さん」

「湊様!」

「どうでした!?」


 近付いた湊をそこに居た全員が歓迎する。

 湊は村人の若い衆に視線を向け、改めて頭を下げた。


「みんな、素敵な屋敷をありがとう……その、俺自身ここまで立派な建物に住んだことはないからさ……ちょっと圧倒されたけど、それでも凄く嬉しいよ」


 頭を下げれば、そんな必要はないと村人たちは慌てる。

 しかし湊としてはこれほどに素敵な贈り物をされて感謝をしないなんてあり得ない……だからこそこうして頭を下げるのだ。

 その後、次の作業に移っていく村人たちを見送り、湊とタナトスはミアと合流して少しばかりそこから離れた。


「凄いねあの人たち。あんな才能というか、スキルが眠っているなんて思わなかったよ。帝国に生まれなかったらどこかの国で名を馳せる職人になってたと思うよ」

「ミアから見てもそんなに凄いのか」

「うん。だからここからは少し湊さんに相談なんだけど……」


 それからミアが話してくれた内容は村人たちに関わる話だ。

 今のままでも十分良いのだが、あの村人たちはされるがままは嫌だからとミアに仕事の紹介を頼んでいるらしい。


「ここにずっと居てもやれることは限られるし、それが永遠に続くのも苦痛みたいな部分あるでしょ?」

「それもそうだな……俺としても彼らにはあんな環境だけじゃなく、人と人が触れ合えるような環境があることを知ってほしいって思うよ」

「うんうん♪ だからさ、更にもっと相談なんだけど!」


 そこからは村人に関することと、このネバレス城付近に置く施設に関する相談ばかりだった。

 流石に今日だけでは全て決めることは出来なかったので、また後日村長などを踏まえて話をすることに。


『主、それからミアも……随分と一日で仲良くなったみたいだな?』

「まあねぇ♪ 一緒に寝て……それに……うふふ~♪」


 それから当たり前のように、二人が言い合いを始めたのも当然だった。


▼▽


 その日、湊が元々住んでいた世界にて激震が走った。

 それは人気のアプリゲーム、ダークレゾナンスにて新たなストーリーが発表されたからだ。

 動画配信サービスでの公式生放送にて、新キャラや新機能などが発表された後、出演声優や視聴者たちの不意を突くようにそのムービーは流れたのである。


『指揮官……どうされましたか?』

『どうしたんだ指揮官?』

『いや……』


 何かに気付いたように、映像に出ている指揮官は何かを見た。

 傍に控えるアーシアとレイが不思議そうに見つめる中、それは指揮官の前に現れた。


『……え?』

『なんだ……?』

『この感覚……あなたは一体――』


 おどろおどろしい雰囲気を纏い、現れたのは黒衣の青年。

 指揮官だけでなくアーシアと、そしてレイがどこか既視感を抱くような面持ちで彼を見つめている。

 明らかに普通ではない彼は一体何者なのか、そして指揮官と同じ声で台詞が囁かれた。


『どれだけ希望を見出しても、どれだけ可能性を示しても、この世界は何一つ変わろうとしない……傷付け、罵り、殺して……貴様らはどこまで行っても変わらないのであれば、この世界はもう無くなった方が良い』


 そんな台詞が流れた後、こんな言葉が現れた。


“それは、もう一人の指揮官――変わらない世界に絶望し、全てを失って闇に染まった彼……全てを失った平行世界からの来訪者”


 その言葉が何を意味するのか、来たる新ストーリー実装に向けてダクレゾプレイヤーたちは期待に胸を膨らませると同時に、今までにない絶望が訪れるのではないかと不安も抱くのだった。


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