うたかた⇔4.4 Letter/sec

gaction9969

●僕にとって重要な三分

 ……には三分以内にやらなければならないことがあった、そうだ、だから、いま意識と共に私はここに在るわけで、とにかくこうなってしまったのならば、己の脳内で記憶の依り代であるところの「言葉」を一秒一秒、秒単位にて紡ぎ続けることが、現況把握のいちばんの近道であることは確かであって、ゆえに大して意味も無さそうで/意味を為さそうに無い言葉群を連ねているのだが、いや落ち着け、白紙状態のまま放り出されることはいつものこと、つまりはそれは「自分」からのSOSの結果であり「私」は意識の狭間から引っ張り出されるのをだんだん思い出して来たぞ、よしよし、周りの事象から推測し立て直すんだ、ここは自室、締め切られた窓から差し込む光は淡い、時刻は十六時二十一分、左手首の内側に向けて付けていたスマートウォッチで確認、同時に目に入ったミミズ腫れのような何本もの平行線が健在であることも視認、何だ、差し当たっての「生命の危機」は無さそうじゃあないか、ならなぜ「私」が覚醒されたんだろう、三分以内に止血・通報・その他諸々、「自死」を回避するためのセイフティーがこの私のはずだが、解せないままに今度は右手、そこに握られていたのは万年筆で、何かを書き記していたのか、もしや遺書か、など思いきや、寄りかかるようにして体を預けていた座卓の上にはスマホがきちりとこちらに正対して置かれているばかりで、ふと顔を近づけて覗き込んだらロックが外れ、そこにはひとこと<考え過ぎてくれるのを期待してた/僕の思考は4.4文字/秒>との簡素な文字列、いや何だこの数字は、待てよ三分は百八十秒、であれば約八百文字が三分に相当? ちょうどもうすぐそれに到達するが、逆手に握られた万年筆の先に付着した鮮やかな赤い液体がインクで無いことと、自分の首の右辺りから鼓動と共に間欠的に溢れ出るあたたかなぬくもりが何かを悟った時には、私の意識は既に白い闇の中へとずるりと落

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