空にプレゼント! それは、二月二十九日に起きた三分以内の課題。
大創 淳
第一回 お題は「書き出しが『○○には三分以内でやらなければならないことがあった』」
――例えば彼女。
そのことを説明するにあたり、時を少しだけ戻そう。ほんの少しだけ。この時、彼女はカップ麺にお湯を注いでいた。その場所は芸術棟の二階。写真部の部室。
彼女は写真部に所属していた。
そして、その部の部員はというと……彼女一人。普通なら部員不足で廃部となるわけだけど、そこは我が学園の緩い部分。写真部は美術部と音楽部と合同とし、部員数は確保できているという仕組みだ。但し活動する日や時間など、滅多に一致したことがなく、顔を合せることもあまりなかった。そのため、こうしたフリーな時間を過ごすことができる。
事の始まりは……
彼女がカップ麺に、お湯を注ぎ終えて、蓋をした時だ。
カチカチと秒を刻む音。その蓋こそがスイッチなのだ。
そして僕は放った。彼女へ贈る、この次の指令。僕は、彼女にとって御主人様のような存在なのだろう。説明は多くなるけど、彼女は写真部の他にもう一つの顔を持っていた。
それは、学園で起きるトラブルを未然に解決することを生業とした『エックス』という組織の一員だった。そのことを知る僕は、彼女への仕返しを実行するのだ。
その内容こそが……
三分以内という制限時間。
カチカチと秒を刻む音と大いに関係している。彼女はきっと、仕掛けるのは得意と思われるけど、仕掛けられるのは苦手な筈。この場所から良く見える、彼女の様子と音声も。
仕掛けたものは、何も時限爆弾だけではない。
カメラも、盗聴器だって……
アタフタした様子を、じっくり楽しむために。
泣きべそ掻きながら、僕に「助けて」と着信してくるのを。ところが、想定外は意図も簡単に起きた。スマホの画面を見ながら……誰かと話をしている? 所謂ガイドラインってやつ? 組織の仲間にいたのか? 機械に詳しい人物なんて。僕の知っているエックスの面々には誰も該当する者なんていない筈。皆が皆、体育会系の筈だけど……
そして彼女は手に取って観察している、白いボデーの目覚まし時計。配線で接続されている起爆装置や筒形の爆弾。外観はまるでダイナマイトだけど、実は少し……
それにしても、呆気なく見つけられた。
それに解体も。手に汗握る解体……もちろん彼女は人生初の筈だけど、焦りも慌ててもいない様子。それどころか冷静沈着? いやいや、笑みが浮かんでいる程……
楽しんでいる? バラされる時限爆弾。そして配線の選択。赤と青の二択。本当は三択にしようかと思ったけど、やはり定番中の定番に拘った結果。切断にはニッパーを使用。
すると、彼女は固唾を呑んだ。
何色を切るのか? 実はいうと、それは僕にも解らない。繋ぐ色を間違えた可能性はあるから……それに仕掛けはまだ……ダミーの線が隠されている。その色は黄色。
さあ、謎解きはここから。
するとスマホは、冬に似合う曲を奏でながら着信した。僕は出る、その着信に。
『答えは信号機。さあ、切ったよ、止まれとの一念で』
「な……」
と、言葉を失った。彼女が切ったのは赤。……そうだよ、その通りだよ。引っかけなどない直球勝負だった。彼女は真っ直ぐなタイプだから、それを考慮してなかった。
『じゃあ今回も私の勝ちね』
「フフフ、僕との勝負はまだ始まったばかり。次回も仕掛けてやるから」
『いいねいいね、まるでラパン三世と金型警部みたいな感じで。私、エブリ大好きなの』
「それでこそ卜部空だ。僕はいずれ君に勝つ。勝って、僕の正義を実証する」
『臨むところ。私はヒーロー女子だから正義の名のもと、君を検挙するから』
……それ、意味わかっているのかな?
と、思いつつも、この騒めく季節に楽しみを見出した、彼女と僕のゲーム。
僕の名はサンタ。今日は特別なゲーム。四年に一度の二月二十九日だから。クリスマスよりも大分遅れたけど、彼女へのプレゼントだ。このお題のネタを提供した。
そして三分、彼女は食すカップ麺。三分以内に時限爆弾を解体したご褒美。
空にプレゼント! それは、二月二十九日に起きた三分以内の課題。 大創 淳 @jun-0824
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