入学試験の悪夢
月代零
それは、悪夢のように
今は、大学の入学試験――マークシート方式で行われる、一次試験の真っ最中だった。
あと三分で、試験時間が終了する。手ごたえはあった。得意な科目ではないが、なんとか全問解くことができた。
そして、最後に見直しをしようと、解答用紙と問題用紙を照らし合わせようとしたところ、致命的なミスに気付いた。
途中から、解答欄がズレている。解答は問題用紙にメモしてあるのだが、その数字が該当する問いが、ある所からことごとく違っていたのだ。
昴は一人、青くなった。どうしてこんなことになっている。自分はどちらかというと慎重な性分のはずだ。重大な局面において、こんな間抜けで、かつ重大なミスをするなど、普段の昴からは考えられなかった。
だが、今は己を責め、原因について思い悩んでいる場合ではない。このままでは、志望校への合格は絶望的だ。なんとしても、この失敗を挽回せねばならない。
試験終了まで、あと二分三十秒。昴は消しゴムを持ち、必死に解答用紙を擦る。机の上に消しくずが躍り、ミミズのようにのたくって床に落ち、足元を覆うほどに積もっていく。
あと二分。正しい番号を、鉛筆で黒く塗りつぶしていく。しかし、黒鉛が掠れて、手を動かすほどに白い紙を覆いつくしていった。
ああ、どうしてこの小さな丸を上手く塗りつぶす程度のことができないのだろう。いつの間にか、黒は闇のように広がって周囲を覆い、手元もよく見えなくなっていた。
あと一分。焦るほどに思考は空回りし、手も思うように動かない。自分の手ではないみたいだ。
あと十秒。勢い余った消しゴムが手を離れて宙を飛び、力を入れすぎた鉛筆の先が、解答用紙を突き破った。その穴は机を穿ち、床をも引き裂き、昴はそこに落ちていく。
その時、試験終了を告げるチャイムが無慈悲に響いた――。
そこで、昴は目が覚めた。
若干、混乱していた。寝ぼけ眼で周囲を見回すと、そこは自分の部屋だった。
そうだ、今は大学のレポートを書いている最中だった。最近寝不足が続いて、つい机に突っ伏してうたた寝をしてしまったようだ。
目の前には、書きかけのレポートが開かれたノートパソコン。そのキーボードの上に、猫のスペランツァがちょこなんと鎮座していた。
スペランツァは、この古書カフェ兼下宿・
キーボードの上でじゃれたのか、モニターには意味不明な文字列が並んでいた。
書きかけのレポートは無事だろうか。確認しなければと思い、スペランツァをどかそうと手を伸ばす。
しかし、スペランツァは遊んでもらえると思ったのか、キーボードの上で腹を見せてごろりと転がる。その拍子に、いかなる偶然か、はたまた神のいたずらか。レポートの文字列が、全てグレーに覆われた。全選択のショートカットキーが押されたようだ。
スペランツァがうみゃあと鳴いて、更にもぞもぞと足を動かす。その下にはBack spaceキーがあった。
昴は思わず、あっと引きつった声を上げる。
危機回避に残された時間は、あと三秒――。
入学試験の悪夢 月代零 @ReiTsukishiro
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