幸せロック野郎の最期

@lavieenrose

やるべきか、やらないべきか、それが問題だ。

「ハーイ、ロッキンピーポー!」


 ガシャーンッなんて漫画みたいな音を立てて、そいつは僕の部屋に飛び込んできた。下着にもならないような、申し訳ばかりの布切れを纏って、背中には翼がある。ハハ、悪魔かよ。僕の悪巧みがバレたかな。


「……」

「ヘイブラザー! ノリが弱いね。どうしたのどうしたの、タマなくしたのかな?!」

「いや、今から無くすところさ」

「オーマイ・ゴッド! あれ、神はアタシの敵か。 オーマイ・サタン!」


 なんだろう、この悪魔。テンションが高くて、見ていて嫌になりそうだ。こういうのがいるから、やっぱりやっていけないんだよ、僕は。まぁ、悪魔が僕になんの用かは俄然興味ないし、僕は僕のしたいことをしようかな……。


「……あれ、どこにしまったかな。すぐ出せるようにしてたハズなのに」

「なになに、ナニ探してんの? アタシも手伝おうか?」

「いや、結構。そのくらい一人でできないと、お天道様に顔向けできないからさ」

「えー、アタシお天道様はキライだな。アイツがいるとアタシ達動けないし、紫外線で肌荒れるし」

「へぇ、悪魔も肌荒れするんだ。面白いことを知ったね」


 いや、悪魔の肌事情なんて、冥土の土産にもなんないな。地獄まで行って悪魔のウンチク語るアホはいないだろうよ。そんなことより、ほんとどこ行ったかな。個人輸入紛いのことして、やっとこさ手に入れたのに、ナニがあってタマがないなんて。


「……いや、アタシ悪魔じゃないよ?」

「へぇ、そうなんだ。あれ、こっちかな」

「いや、聞いてよ。アタシね、サキュバスなの。悪魔じゃないよ?」

「おんなじだろ」

「失敬な!哺乳類種とヒト種くらい違うよ!」

「……おんなじじゃん」


 サキュバスって、なにする悪魔だっけ。あぁ、ナニする悪魔か。まぁ、僕には関係ないな。僕は今からタマ無くすんだから。あれ、ほんとにどこやったかな……あ、思いだした!


「あら、サキュバスと聞いてベッドルームに直行とは、物分りの良い人間クンは好きだよ!」

「そうそう、枕のウラに……有った! よかった、なくしてたら死ぬに死ねない」

「なくす? あ、キミ、タマをなくすんだって? なくす前に、アタシにチョッと貸してくれない?」

「え、なんで?」

「そりゃあね、アタシらの食事に必要だからよ」

「それなら、隣の部屋のオッサンに頼みなよ。奥さんに逃げられて、溜まってるみたいだよ、イロイロ」


 夜中に物音はするし、酒臭いし、感じ悪いし、最悪のオッサンだけど、淫魔のエサならちょうどいいだろうね、あれは。見栄えは悪いけど、料理のキモは味だから。いや、味の保証もないか、あんなオッサン。


「えー、アタシ偏食でさ、オッサンは食べないの」

「なら、上の部屋のニートは? 『萌々何某』とかってゲームで毎晩毎晩ハッピータイムだから、ナニも元気だと思うよ」


 あのニート。夜な夜な煩いんだよ、天井、アイツにとっては床だろうけど、ドンドン、ゴソゴソ、ドンドン、ゴソゴソって、何してんだよ、全くさ。いや、ナニしてるのか、そりゃあ。


「うーん、アタシ偏食でさ、ニートは食べないの。ごめんね」

「あそう。偏食は健康に悪いよ」

「サキュバスの偏食は健康に影響アリませーん! ほら、プリーズギブミー!」

「こういう言葉遣いは好きじゃないけど、悪魔にはちょうどいいかな」

「うん?」

「クソでも食ってろバーカ」

「なっ……言ったね、キミ、言っちゃったね……」


 なにやら、悪魔さんはブツブツ言いだした。”悪魔の囁き”の本物だぜ、あれ。っと、タマも見つかり、場所はお気に入りのベッドルーム。ココまで来ればもう、ヤることは一つだね。


「このアタシに言ってはいけないことを言ったね……絞り尽くしてやる、ブザマな腹上死を体験させてあげよう!」

「いや、結構。ケリくらい自分でつけられるさ」

「ん、うん? キミ、さっきからナニ持ってるの?」

「ナニって、イチモツだよ。好きじゃない?」

「そりゃ好物だけど、それ、チョッと違くない?」

「え、そうかな。コルト・パイソン.357マグナム。シティーハンターが使ってるやつと同型だよ。アレはカスタム版だけど。あ、そうだよ、シティーハンター! あのもっこりマンみたいな男を探しに行きなよ。悪魔ならきっと見つかるさ! 僕なんかよりずっといいよ!」

「アタシ、漫画は読まないんだよね」

「へぇ、奇遇だね、僕もさ。友達が読むんだけどね」


 ちゃんと動作を確認して、シリンダーの回転、ハンマーの稼働、トリガープル、問題なし。バレル内に目立った汚れなし。タマにも問題は見当たらず。さぁ、パーティロックだ! そういえば、悪魔さんは僕の大切な窓ちゃんを突き破った時に、僕をロッキンピーポーって呼んだっけ、言い得て妙だね、確かに僕はそういう気分だよ。


「精疲力尽、南無三宝……!」


 ずっと考えてた辞世の句もキレイに言えた。トリガーに指をかける感覚、タマが籠もってると一味違うな! 銃口からライフリングがよく見えるのも、いい景色!


「え、ちょっとちょっと、待ってよ!」

「…………なに、今いいトコなんだけど」

「いや、だからさ、その前にタマ貸してってば、いいでしょ、最期にいい夢見せたげるからさ!」

「いや、結構。夢なら散々見たよ。僕の人生、夢みたいなもんだからね、僕も泡みたいに消えるのさ」

「またまたー、カッコつけちゃって。ほら、強がんないでさ、自分に正直に!」

「うん、そうするよ。……最後に会ったのが、あんたみたいに陽気なやつで、かえってよかったよ。それじゃ、サヨナラ」


 指に力を込めると、かかった引き金の重みが、カチンと軽く――


「あっ、あぁ! ほんとにハジいちゃったよ。若いのに、ヤだねぇ。……あら、地獄から電話だ。……もしもし? うん、アタシ。おひさー。え、そうなの? うん、行く!」


 ――あれ、意識がある。感覚もある。ミスった? いや、ここは僕のお気に入りのベッドじゃない。辺りを見渡しゃ、目に入るのは、炎の間欠泉、剣の山、それに煮え滾る血の池。ハハ、まるでテーマパーク。ま、笑ってられるのも今のうちかな。アルカトラズより恐ろしい刑務所って評判だからな、地獄は。

 あぁあ、嫌になるなぁ、これで終りと思ったら、人類最大の謎を解いてしまったよ。まぁ、人類にこの答えを伝えてやることはできないけど。

 さて、初めは血の池か、剣の山か、鬼の料理人にクックされちゃうかな。


「うーん、悪い気分じゃないな。今のうちに堪能しよう。これからは長い服役だ」

「――あぁ、いたいた! やっほー、ロッキンピーポー!」

「え、あんた、何してるわけ、こんなところで」

「え、アタシの地元よ、ここ。気が向けば帰ってくるよ」

「あそう。ま、いいか。ねぇ、あんた、知ってるかい。悪魔って肌荒れするらしいぜ」

「え、そうなんだ! なんて驚かないよ。アタシ親戚だもん」

「だろうね」


 せっかく地獄に来たんだから、アホでもやって楽しまにゃ損だね。踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら踊らにゃ損々! アハハ、まるで生きてるみたいな気分だって? いや、死んでるよ。間違いない。

 だって、こんなにスッキリしたいい気分なんだからさ。

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